Q:最後に、2020年シーズンの大胆予想をお願いします。2019年はメルセデスが15勝、フェラーリとレッドブル・ホンダがそれぞれ3勝ずつという結果に終わりましたが、2020年レッドブル・ホンダは何勝できそうですか?
尾張:まずはメルセデスが6勝(オーストラリア、中国、スペイン、フランス、アメリカ、アブダビ)、フェラーリが7勝(バーレーン、ベトナム、アゼルバイジャン、カナダ、ベルギー、イタリア、ロシア)、そしてレッドブル・ホンダが9勝(オランダ、モナコ、オーストリア、イギリス、ハンガリー、シンガポール、日本、メキシコ、ブラジル)かな。ちょっとフェラーリが多すぎるような気もしますが……。でも、最後は接戦になると思います。
新しくカレンダーに加わるグランプリについては、ベトナムはストレートが長いからフェラーリ優位。オランダはフェルスタッペンが勝たないとまずいから、フェルスタッペンにしましょう(笑)。ホーナーも、ザントフールトはフェラーリよりもメルセデスやレッドブルに合っていると言っていましたから。
2019年シーズン総括のところでも話しましたが、今年のフェラーリとレッドブル・ホンダにとって、シーズン前半戦は最悪でした。自滅と言ってもいいような状況でしたが、それさえなければ2020年は面白いシーズンになるのでは? メルセデスは7連覇できないと思いますよ。2019年の後半戦の成績が今の力関係だと考えると、サーキットによってそれぞれのチームの勝敗、勢力図が決まってくると思います。
ですが、当然フェラーリは直線で速いだけでなく、他の部分での競争力アップ考えてくるでしょうし、レッドブルはホンダPUの馬力アップを考慮すると、中高速コーナーでの強みを増してくる。一方メルセデスは、今まで優勝を諦めていたレースを諦めるわけにはいかなくなる。となれば、メルセデスですら難しいシーズンになるのではないでしょうか。
ここで本当に重要になのが、セカンドドライバーです。ハミルトン、ルクレール、フェルスタッペン以外だと実力的にはベッテルがトップですが、ベッテルはそう簡単にはチームの言うことを聞かないかもしれないし、そう考えるとルクレールのタイトルも厳しいかもしれません。チーム代表のマッティア・ビノットはチームをコントロールできていないし、ビノットには荷が重いかなと思います。
ボッタスは私生活でもいろいろなことがありましたが(11月末に離婚)、2020年はもっとレースに集中できるようになるかもしれません。それからアルボンは、もう一皮も二皮も向けてくれないと戦いにならないと思います。もしフェルスタッペンがドライバーズタイトルを獲得すると考えれば、レースではアルボンが2位に入賞してハミルトンが3位以下にならないと、フェルスタッペンとハミルトンとの差が広がらない。メルセデスが得意なサーキットでボッタスが2位に入る可能性を考えると、やっぱりアルボンには2位に入ってほしいです。
中団争いについては、やはりマクラーレンは良いと思います。荒れたレースでは自力で表彰台を取れるくらいのポジションにいくと思うので、2020年はセカンドグループとサードグループくらいに分かれるのではないでしょうか。ルノー、マクラーレン、ハースに加えて、ここにトロロッソが入るかどうか。レーシングポイント、アルファロメオ、ウイリアムズが遅れを取る可能性があります。
詳しく見ていくと、ルノーもワークスではありますが、規模的にはトップ3ほどではない。2019年はリカルドが加入しましたが、今年の成績を考えると、やはり(ドライバーよりも)クルマの性能が占める部分が大きいので、エステバン・オコン加入の効果はそれほど期待できないと思います。
ハースは最終戦アブダビGPに新しいパーツを持ってきていましたが、そのパーツを試していたロマン・グロージャンがボッタスとぶつかってしまって十分なデータ収集ができなかったようなので、どれくらいポテンシャルを持っているかわかりません。とはいえ2020年に向けて今年から開発を進めていると思うので、伸びしろがありそうです。
アルファロメオは厳しいでしょう。フェラーリ型のフロントウイングが大正解ではなかったというのを考えると、アルファロメオはクルマ作りを変えないといけない。ところが2020年だけのためにクルマを大きく変えることはできないですよね。トロロッソとアルファロメオはそれほど伸びないのではないかと予想します。
あとは少し気になっていたのですが、2019年シーズンはFIA側に何度かミスがありました。例を挙げるとしたら、今年の日本GPの決勝レースで予定よりも1周早くチェッカーフラッグが振られたこと。他にも開幕戦オーストラリアGPでは一部のグリッドからシグナルが見えなかったり、アブダビGPではレース序盤にDRSが使えませんでした。
これらのトラブルと、チャーリー・ホワイティング(FIAのレースディレクター)が亡くなったことは無関係ではないと思います。もちろん後任のマイケル・マシに全責任があるわけではないですが、潜在的にあったFIAのシステムの課題がいろいろな形で浮き彫りになりました。
人間がやる以上ミスは起きるものですが、少しでもミスが起きないようなシステムを作るようにすべきだと思います。特に新しいサーキットはこういうことが起きやすいので、2020年はそういうところも気をつけてやっていただきたいですね。
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尾張正博
宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場を離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。
