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F1 ニュース

投稿日: 2022.01.18 15:08
更新日: 2022.01.18 15:10

点と点をつなぐと見えてくる奇跡の伏線。“ノーペイン・ノーゲイン”のホンダDNA/2021年F1アブダビGP取材後記

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F1 | 点と点をつなぐと見えてくる奇跡の伏線。“ノーペイン・ノーゲイン”のホンダDNA/2021年F1アブダビGP取材後記

 2021年F1第22戦アブダビGPは、間違いなくF1史に刻まれるレースだった。少なくとも、これまで自分が見てきたなかで、もっとも緊張感にあふれ、いままでに経験したことがないほど劇的な週末だった。個人的には一生忘れない、忘れられないレースだ。

 実際のところ、あの週末の流れはルイス・ハミルトン(メルセデス)のほうにあった。ホンダの山本雅史F1マネージングディレクターが吐露したように、アブダビにおけるレッドブルとメルセデスのマシンパフォーマンスは総体的に見れば“49対51”。しかも予選Q2でミディアムタイヤにフラットスポットを作り、ソフトタイヤにも関わらずスタートでポジションを落としたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が、絶望的な状況に追い込まれていたことは間違いなかった。ところが、最終的なリザルトは真逆のものとなった。

 最終戦の現場で、僕は『ターン2~4』と『ターン7~9』の2箇所における両者の速度差に注目していた。その2箇所に共通しているのは“舵角のあたった全開区間”であること。前号の本誌(No.1567)40~45ページで掲載しているとおり、GPSデータによる速度差比較では『ステアリングを真っ直ぐに保った全開区間』のレッドブルとメルセデスがほぼ互角であるのに対して、『舵角のついた全開区間』になるとレッドブルはメルセデスに大きく水をあけられていた。

 トルコのターン8やターン11、ブラジルで言えば緩く左に曲がっている最終ターン13~14~15のような箇所での両者の差は5~10km/hにまで広がっており、もし、これがヤス・マリーナでも再現されてしまったら、フェルスタッペンのタイトル獲得の可能性は限りなく低くなると思っていたからだ。

 では、実際のところはどうだったのか? アブダビにおける2台の速度データを照らし合わせてみると、『ターン2~4』はほぼ同等の速度に踏みとどまった。車体のセッティング、ドライバーの頑張り、そしてホンダパワーユニット(PU)のエネルギーマネジメントが奏功したのだろう。一方の『ターン7~9』に関しては、やはりメルセデスが速く、ハード面での劣勢は否めなかった。ただ、それに対してはレッドブルがさまざまな策を講じて、メルセデスに対するスピード差を補っていた。

 たとえば、それは予選Q3。セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)がフェルスタッペンにトウ(スリップストリーム)を与えた場所が“単なる直線”ではなく、“曲がった直線”(=ターン7~9)だったのは、決して偶然ではない。中継映像では、ペレスがフェルスタッペンに代わって空気の壁を切り裂いていた時間はごくわずかなように見えた。しかし、その効果についてホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターに尋ねると「具体的な数値は言えませんが、あれは(ペレスの役割は)めちゃくちゃ効果が大きかった」ことを明かした。

 決勝中、苦しいはずのソフトタイヤでハミルトンに対して秀逸なディフェンスを見せたペレス。ハミルトンに抜かれた直後、すぐ背後まで迫っていたフェルスタッペンにトウを与えたのも、予選と同じ“曲がった直線”(=ターン7~9)だった。さすがにあれは偶然の要素もあるだろうが、レッドブルの徹底した戦いぶりに身震いがした。

 こうしたペレスの貢献のほか、VSC(バーチャル・セーフティカー)中のタイヤ交換などを積み重ねた結果、2番手を走っていたフェルスタッペンが、レース終盤のハミルトンに対してタイヤ交換のためのフリーストップ可能なギャップを与えなかったことが劇的な結末への伏線だった。そこにほんの少しの運を味方につけたことで、伝説のファイナルラップへとつながった。

 レースディレクターの裁定に対して、いまだほとぼりが冷めていないのは事実だが、“49対51”だったパフォーマンス差をレッドブル、ホンダ、フェルスタッペンとペレスが一丸となってひっくり返したことに世界中のファンが熱狂したことも事実である。

 ホンダという視点で見れば、2020年10月のF1活動終了発表時点で、これほどのパフォーマンスを示すパワーユニットを投入してくるとは誰も想像していなかった。あの時点ではメルセデスパワーユニットの圧倒的優位は揺らがないと思われていた。それでもホンダの技術者たちは、あらゆるリスクを覚悟のうえで、“ノーペイン・ノーゲイン”の精神で新骨格パワーユニットを最前線に送り込み、アイルトン・セナ以来の30年ぶりのドライバーズタイトル獲得に貢献した。

 アブダビGPの週末にせよ、ホンダのF1活動終了発表から1年余りという歳月にせよ、『もうダメだ』という崖っぷちの状況から起こした奇跡の逆転劇には取材者である僕自身も興奮させられた。2021年をもってホンダ第4期F1活動は終止符を打ったが、これまでの歴史を見てもホンダのDNAはきっと変わらない。個人的にはホンダがホンダである限り、いつの日か第5期が始まるときがやってくると信じている。

※この記事は本誌『auto sport』No.1568(2022年1月14日発売号)からの転載です。

2021年F1第22戦アブダビGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
2021年F1第22戦アブダビGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
2021年F1第22戦アブダビGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
2021年F1第22戦アブダビGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

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