広大なインディアナポリスでは、ドライバーひとりに対して、ふたりのスポッターがつく。ロジャーはターン1のスポッタースタンドで、琢磨とともに長丁場を戦っていた。

かつてはドライバーとしてインディカーシリーズを戦い、インディ500にも出走した経験を持つロジャーの言葉は的確で、琢磨は「オーバルを戦う上で、かけがえのない存在」と信頼を寄せている。
 
スポッターからドライバーに伝える言葉は短く、シンプルだ。順位を争う他のドライバーとの距離、相手のポジションを明確に伝える。ロジャーは同じ単語でも言葉の強さを変えることで、微妙なニュアンスを伝え、コース上のドライバーと“併走”する。

琢磨に抜かれて2番手に落ちたカストロネベスは、もう一度アタックを仕掛けてくる。それを伝えるスポッターの声に緊迫感が混ざる。最後のバトルをしのいだ琢磨に「クリア」と声をかける。

いつも冷静なロジャーだが、2012年に続いて、目の前に勝利が見えてくると、双眼鏡を持つ手が震えた。「ホワイトフラッグ」チェッカーまでは、あと1周だ。そして、琢磨がトップでフィニッシュすると、しばし静寂が訪れた。

琢磨の歓喜の叫びが響いたのは、そのあと。緊張から解放されたロジャーは無線を通して、思わず日本語で話しかけていた。

「おめでとう」

ロジャーはライバルでもあるスポッター仲間から祝福を受け、「早く行けよ!」と促されてビクトリーレーンへ向かった。

 

 
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