次のトラックレースが始まる前に、デトレフに別れを告げた。明るい太陽は雨に変わっており、私はコース脇でレースを見ることにした。高速セクションのコースサイドに立っているのは奇妙な感じがした。

 ウエットコンディションのなか、スライドし、飛ぶように通り過ぎていく大きなトラックと私を隔てるものは薄いバリアしかなかった。私はびしょ濡れになりながらも多くの写真を撮ると、プレスルームに戻って残りのレースを観戦した。

 ETRCはテレビで完全放送はされていなかったが、レース主催者は数台の固定カメラとオンボードカメラを設置し、数台のドローンも飛ばしていた。そうして撮影したものを編集して、レース後にハイライトを集めた映像を作るのだ。

 リアルタイムのコース上の映像を見られるスクリーンは、プレスルームにしかなかった。そのためチームの関係者たちがプレスルームに足を運び、ジャーナリストと一緒にレースを見ているのは奇妙な経験だった。

 結局雨が激しくなり、レースは赤旗が掲示され、先頭のトラックがフィニッシュラインを超える瞬間を見た。その瞬間を注意深く見ていたことは大きな意味を持つことを私は後に理解することになるのだが、ひとまずレースは幕を閉じた。

2016年にオーストリアのレッドブル・リンクで開催されたヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ(ETRC)
2016年にオーストリアのレッドブル・リンクで開催されたヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ(ETRC)

 レースウイークの終わりには、数百台のトラックがパレードラップを走ったが、見事な光景だった。明らかに素晴らしいペイントワークを見せつけているトラックがいたり、なかには作業トラックもいた。それはとても印象に残る光景だった。

 私はホテルに戻ったが、がっかりしたことにバーは閉まっていた。小さな村を歩いて、どこか食事とビールにありつけるところを探したが、どの店も閉まっている。オーストリアではすべてのものがとても早い時間に閉まってしまうのだった。

 ビールさえも手に入れることはほぼ不可能で、なんとか小さなピザショップを見つけたものの、お店を経営しているのはイスラム教徒の人だったために、ビールは置いていなかった。

 しばらくするとFIAの関係者とシリーズの主催者たちがコースから戻ってきたので、私はこの状況について教えると、彼らは震え上がった。これは重大な危機だったようだ。彼らは公式な申し立てに対する裁定を下さなければならなかったのだが、ビールを飲みながら議論をしたがっていたのだ。

 パリで私が出会った女性はビールを求めてクルマで出発したが、1時間後、FIAのシニアオフィシャルが、ビールなしで申し立てに対する裁定を決定することを決めた。

 議論は続いたが、だんだんと気まずくなってきた。私はジャーナリストであり、このミーティングにいるべきではないのだ。あるチームが最終的な順位に抗議をしており、優勝したのはコースで宣言されたチームではなく、自分たちであると申し立てていた。

 1時間ほど続いた議論と論争の後で、私は自分が何が起きたかを見ていたことに気づいた。私は礼儀正しく議論に割って入り、申し立てをしているチームが優勝チームをオーバーテイクしたのは、赤旗が出た周回であったことを指摘した。

 逆算すればもともとの結果が正しいことになる。FIAの男性は厳しい顔で私を見てから笑顔になり、「君にこの話し合いのすべてを聞いてもらうことが良いことであると思っていました」と言った。そして申し立ては却下された。

 数分後、クルマでビール探しの旅に出ていたあの女性がふたつの大きな木枠に入ったビールとともに戻ってきた。私たちは大いに飲み、とても楽しい夜を過ごした。何時にベッドに入ったかは覚えていないが、翌朝、電車の駅に着いた頃にはとても疲れを感じていたと思う。

 最後は悪天候のせいで電車がかなり遅れてしまい、家に帰るフライトを逃してしまったが、私は気にしなかった。トラックレースを見られたことに満足していたからだ。

 残念なことに、それ以来、トラックレースには行けていない。カレンダーを見るといつも他のレースと日程が重なってしまっていて本当に残念だと感じている。本当はもっと見たいと思っているのだが、テレビで放送されないというのも歯がゆいものだ。

2016年以来、他カテゴリーのレースとスケジュールがバッティングしていて、観戦できずにいるが、果たして次に見られるのはいつになるのか
2016年以来、他カテゴリーのレースとスケジュールがバッティングしていて、観戦できずにいるが、果たして次に見られるのはいつになるのか

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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。

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