2014年のWEC世界耐久選手権で、8戦中5勝を挙げてダブルタイトル獲得を果たしたトヨタ。シリーズ参戦3年目にして初戴冠を遂げたトヨタの“原動力”は何だったのか?

 トヨタがWECで念願のダブルタイトルを獲得した。マニュファクチャラーズとドライバーズの両タイトルだ。F1では2002年から8年間挑戦を続けたが1勝もできなかったトヨタだが、WECでは挑戦からわずか3年での両タイトル獲得。FIAの世界選手権タイトル獲得では、日本の自動車メーカーとしては2013年ホンダのWTCC世界ツーリングカー選手権以来の偉業と言える。

 2014年WEC最終戦で2位に入りマニュファクチャラーズタイトルを獲得したTS040ハイブリッドは、完成直後から高性能ぶりを発揮し、開幕戦シルバーストンでもそのことを確認することができた。新レギュレーションが採用になった今年、新参メーカーのポルシェも含めてドキドキで新車を持ち込んだシルバーストンだったが、トヨタはそこでTS040ハイブリッドがライバルに対してアドバンテージを持っていることを確認したのだ。

 トヨタ・モータースポーツGmbH(TMG)の社長で、トヨタのWECプロジェクトを牽引するトヨタ・レーシングのTMG代表でもある木下美明は、「新レギュレーションに向けて真摯に、真面目に車両開発をしてきた結果」と分析する。

「新レギュレーションは燃費規制になって、アウディの採用するディーゼルエンジンと我々のガソリンエンジンのパワーが均等化されました。昨年まではディーゼルが圧倒的に有利なレギュレーションだったのですが、今年ポルシェがガソリンエンジンで参戦し、FIAもやっと我々の言うことを聞いてくれた。エンジンのパワーが均等化されるとあとはハイブリッドで戦うわけで、その点では我々は誰にも負けない自信はありました」

 トヨタのモータースポーツ活動の中でWECのタイトル獲得が特別な意味を持つのは、参加車両のTS040ハイブリッドがハイブリッド技術を搭載している点にある。WECはあらゆる自動車技術の参加を許容するシリーズであり、そこに世界の自動車メーカーが興味を持つのだが、トヨタは量産車プリウスに採用したTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)のレース仕様、THS-R (トヨタ・ハイブリッド・システム-レーシング)を2006年から開発し、そのTHS-Rを搭載したTS030ハイブリッドを2012年のWECに持ち込んだ。そして、その進化型であるTS040ハイブリッドで2014年のWECダブルタイトルを獲得したのだ。プリウスを世に問うた1997年、ハイブリッドは省燃費の旗印として持て囃されたが、いまは省燃費に加え世界一過酷なレースで勝つことのできる、高出力を誇るシステムとしても認知されるに至った。

 もちろん、WECのマシンはパワーユニットだけで競争するものではない。クルマの形状自体がフォーミュラカーに比べてより空気の影響を受けやすいが、その点でもTS040ハイブリッドは満足な性能を確保できたという。車両開発担当のテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、「ハイダウンフォース仕様もローダウンフォース仕様も当初の性能が確保できました」と言う。

 トヨタは開幕2戦にハイダウンフォース仕様を中心に持ち込み、ル・マンではローダウンフォース仕様を走らせた。ル・マンの後のオースティンのレースからはハイダウンフォース仕様にローダウンフォース仕様のパーツを組み込み、よりスピードを上げるようにした。コーナーではドライバーは苦労しているようだが、「ラップタイムは劇的に上がりました」とバセロン。これは直線スピードの速いポルシェの登場に対処したものだが、成果は十分だったようだ。

 それにしても8戦5勝という記録は、アウディ、ポルシェという強力なライバルを迎えて戦ったシリーズにおいて、圧倒的な強さを誇示したと言えるだろう。「1月に始まって12月にやっと終わったという気がします。長い1年でしたが、その1年を通して満足のいく仕事ができたと思います」と、木下は振り返る。そして、こう付け加える。「来年は我々のクルマがゼッケン1と2をつけて走ります。その番号を長く守っていくのが我々の仕事です」。

 そして、もうひとつの大仕事は、ル・マン24時間耐久レースでの優勝だ。今年は勝てる可能性が非常に高かっただけに、思わぬトラブルに襲われたときには涙も出なかった。その雪辱を来年こそ果たすと木下は言う。「今年は1台がリタイアしたので、実質1台でレースを戦いました。来年はちゃんと2台で戦いたい。3台出せばいいのにという声をよく聞きますが、遅い3台より速い2台で戦いたいと思います」

 この木下の言葉が表すように、トヨタは2015年以降もWECプロジェクトをこれまで以上に強力に推し進めるという。そこにはル・マン制覇に向けての変わらぬ意志があるが、同時にトヨタが世に先鞭を付けたハイブリッドという技術の研削と普及もあるだろう。モータースポーツでハイブリッド技術を追求し、ハイブリッド技術でモータースポーツを発展させる。自動車メーカーのモータースポーツへの取り組みは、こうした姿勢が大切だ。

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