当初は、ハイブリッド化によるコスト増を抑えるため、R5カーにハイブリッドシステムを追加するという案も真剣に検討されたと聞く。すでにR5カーを持っているヒュンダイとMスポーツ・フォードがその案をプッシュしたであろうことは想像に難くない。
一方、R5を持っていないトヨタにとって、仮にラリー1がR5ベースとなった場合、開発は完全なゼロスタートとなり、出遅れは必至となる。とくにエンジンはR5の場合、市販車ベースでなくてはならない。新たにすべてを作るということになると、トヨタの負担はかなり大きくなるはずだ。
「たしかに、我々とすればR5をベースにするメリットは大きかった。すでに優れたクルマとエンジンがあるからね。しかし、いろいろなことを考えると、エンジンについてはコストダウンをさらに推し進めたうえで、GREを継承するほうが得策だという結論に至った。誰もが納得できる決定だと思うよ」と、FIAからの正式発表を前にラリー・メキシコの現場で話してくれた、ヒュンダイチームのアンドレ・アダモ代表。
実際、R5のエンジンで現行WRカーに匹敵するパフォーマンスを発揮するのは少々無理がある。シュコダ・ファビアR5を例にとると、最高出力は281.6hp、最大トルクは420Nmと発表されている。
一方、WRカーのヒュンダイi20クーペWRCは、最高出力380hp、最大トルクは450Nm。実際の最高出力がさらに上であることは間違いなく、R5との出力差は100hp以上。ハイブリッドブーストを考慮しない状態で100hpを市販車ベースのエンジンに上乗せするのは、主に耐久性の面で現実的ではない。ハイブリッド化による重量増も無視できないファクターだ。
ハイブリッドシステムは、シンプルな構造のものでも50kg以上、補機などシステム全体を含めると100kg近くに達する可能性がある。それはスペアタイヤ3〜4本分に匹敵する重量で、運動性能低下は避けられない。
そこに、エンジンの性能ダウンが加われば、クルマ全体のパフォーマンスは大きく下がり、トップカテゴリーマシンとしての魅力は失われる。さすがにそれはまずいということをR5用エンジン推進派も認識し、GRE継続案に合意したようだ。
ただし、コストダウンのため、アンチラグシステムのフレッシュエアバルブなどは禁じられ、ターボのシステムもシンプルなものになりそうだ。そして、年間使用基数も制限がさらに厳しくなるだろう。
コスト削減のために、トランスミッションは現行の6速から5速にダウングレードされる。5速の4WDギヤボックスはR5カーでも採用されているが、最大トルクの違いを考えれば流用は難しい。新規で開発するとなればイニシャルコストが跳ね上がり、短期的なコスト増は避けられないだろう。
足まわりについては、ハブおよびハブキャリア、アンチロールバーのデザイン単純化、アーム類のバリエーション制限、ダンパー構造のシンプル化など、とくにネガティブには感じられないような変更点が多い。
空力パーツも大幅に制限される。現行WRカーとの最大の違いはリヤウイングで、ボリュームがかなり小さくなるようだ。さすがにR5の簡便すぎるリヤウイングよりはボリューミーになるようだが、ダウンフォースの低下は回避できないだろう。
また、リヤのダウンフォース量が減れば、前後バランスをとるためフロントのカナード類なども小型化されるかもしれない。ヤリスWRCが先鞭をつけ、3月のラリー・メキシコでi20クーペWRCも採用した、フロントフェンダー上部のウイングレットなどの付加的パーツも禁じられ、外部から視認不能なダクトを用いた空力効果を得ることも禁止となる。
以上のような空力面に関する規制は、開発およびランニングコストの削減と、ダウンフォースの低下による速度抑制という、ふたつの目的を持つ。たしかに、現在のWRカーのスピードは目を疑うレベルであり、とくに高速コーナーでのスタビリティは圧巻だ。
