ヒュンダイのティエリー・ヌービルを筆頭に、多くのトップドライバーがそのスタビリティの高さが安全性につながっていると主張し、ダウンフォースレベルを下げることやホイールトラベルを減らすことは、ドライバーにとって決して歓迎できることではないと不満を述べている。
昨年までファビアR5でWRC2プロを戦い、シリーズチャンピオンに輝いたトヨタの新鋭、カッレ・ロバンペラは次のように話す。
「R5とWRカーの最大の差は、アクティブセンターデフの有無だ。ファビアはR5のなかでは比較的曲げやすいクルマだったと思うけど、ヤリスWRCに乗って、違いの大きさに驚いた。運転して楽しいのは断然ヤリスWRCだし、とにかく自然なドライビングができる。ようやくアクティブセンターデフがあるクルマに乗れたのに、また昔みたいなハンドリングになってしまったとしたら、それは残念だね」
同じく、R5からWRカーにステップアップした勝田貴元も同意見だ。
「レーシングドライバーにとってF1が憧れのクルマであるように、ラリードライバーにとってはWRカーに乗ることが夢です。トップカテゴリーのマシンは、やはり最高のテクノロジーを備えていてほしいし、パフォーマンスも最高であってほしい。ハイブリッドシステムの採用はもちろん賛成ですが、いまのWRカーの走りの良さは維持してもらいたいですね」
貴元によれば、アクティブセンターデフの効果は絶大で、ナチュラルなドライビングを可能にするという。センターデフがない前後直結のR5は基本的にアンダーステアが強く、どうしても曲げるためのドライビングになってしまう。
もちろん、前後メカニカルデフのプリロードやランプ角を変更することで、オーバーステア方向のセッティングにすることも可能だが、トラクションを考えると、たとえアンダーが出たとしても、フロント寄りのセッティングにせざるを得ないようだ。
「オット(タナク)さんなど、いまはすごくスムーズな運転をしているドライバーでも、センターデフがない時代のWRカーの走りを見ると意外とアグレッシブで、曲げるドライビングをしています。だから、本当に速いドライバーはきっとすぐに対応できると思います」
ハイブリッドシステムの採用は歓迎すべきことだが、それによってコストが高騰すれば、WECのようにマニュファクチャラーが離れる可能性もある。また、動きの鈍いR5レベルのパフォーマンスのラリー1カーでは、観客の興味を惹くことはできないだろう。ラリー1規定が成功への正しい道を歩むことを、願うばかりだ。
