深夜、暦が8月に替わった午前0時頃から濱口/ベルトラン・バゲット/フィル・キーン組の19号車が姿を消したトラック上、とくにオールージュ周辺で濃いガスが発生した。
すぐ目の前の視界さえも遮るほどに辺り一帯が真っ白のベールに包まれ、ドライバーの視線からはまるで絶壁を上るように映るオールージュが「ヘッドライトがガスに反射してまったく前が見えず、感覚で登るしかなかった」と富田が言うように、ただでさえ難関なスパが低気温と濃霧によりさらに厳しさを増していく。
そんななか順調に周回を重ねていた666号車ランボルギーニにも不運が襲う。走行中にデブリがラジエーターフェンスを突き破り、本体にもダメージを与えてしまったのだ。これにより冷却水やオイルを失ったことでエンジンが焼き付いてしまい、その時点でゲームオーバーとなってしまった。
根本にとっては初めてのスパ24時間であり、スタートドライバーを担いポジションを大きく上げるなどチームに貢献していただけに、第一目標である完走が叶わぬ残念な結果となった。
「普段はインターナショナルGTオープンやスーパートロフェオで活動をしていますので、24時間という長い耐久レースの経験は初めてでもあり、世界中から集うGTの一流ドライバーらとともに走ることができたのは大変光栄でした」と根本。
初めてのスパ24時間はリタイアという結末に終わったものの、「耐久レースとはいえ、予選やレース序盤からもっと貪欲に攻めていくことの大切さを学びましたし、もっと経験を積んで見極めていく必要があると感じました」と収穫もあったようだ。
■“リヤがない”マシンで大雨にも耐え、見事フィニッシュ
ふたりの日本人ドライバーが姿を消すなか、残る富田に完走への期待がかかる。31号車アウディは順調にペースを上げ、シルバーカップのクラス優勝も充分に狙える範疇にいた矢先、チームメイトがバスストップでスピンして停止しているところへポルシェが接触。アウディに大きな破損こそはなかったものの、その後ピットインやペナルティを受けるなどして、ポジションを大きく落としクラス優勝争いから脱落してしまう。
残り2時間の最終スティントは富田が担当。この時点で31号車はリヤディフューザーを失っており、リヤのダウンフォースが著しく低下したアンバランスな状態となっていた。
そんななかレース終了の約50分前にふたたび大粒の雨がコースを襲い、アクアプレー二ングにより多重クラッシュが起きるなどレースが大きく乱れるも、富田はチェッカーフラッグを受けることに集中し着実に周回を重ねていく。迎えた日曜の16時30分、チームWRTのクルーがピットウォールで待ち受けるなか富田は最後まで無事にマシンを運び、初参戦のスパ24時間で完走を果たしてみせた。
初めてのスパ24時間を戦い終えた富田は、「このレース、そしてチームWRTから参戦できたことを非常に光栄に思います」とコメント。
「ファクトリーチームに限りなく近い欧州のトップチームに、ジェントルマンドライバーとしてではなく日本人としてシートを得られ、なおかつエースドライバーとして活躍するということはハードルがとても高く、それを実現させてくれた周りの方々にとてもに感謝しています」
「マシンの調子が良かっただけに、予選では人生でほぼ初めてとも言えるクラッシュをしてしまったことは残念でしたが、レースでは最後方からのスタートながら序盤には随分とポジションを上げ、夜中には総合トップ10争いに絡むことができるなど、良いポテンシャルを示せたと思います」
「今年が最初で最後という気持ちでこのスパに挑んでいただけに、完走はできたものの、何か忘れ物をしたような心残りがあります」