ふたたび2番手となったトヨタも意地を見せる。18時間50分を前に逆転を許してから約30分後、8.7秒先行するライバルに対してストラテジーで揺さぶりをかけるべく、スティントの約半分でブエミをピットに呼び戻した。トヨタの“戦略的”なピットインにフェラーリも反応。トヨタがタイヤを替えなかったのに対してフルサービスを行った関係でその差は4秒となった。
ここから51号車と8号車の息詰まるプッシュ合戦が始まる。残り4時間、姉妹車を援護すべく周回遅れとなっている50号車フェラーリが8号車をかわさんと背後に迫るが、ブエミからステアリングを受け取ったハートレーがこれを許さない。ハートレーは自己ベストタイムを刻みながら50号車から逃げつつ、51号車を追いかけるが、首位ピエール・グイディも3分27~28秒台の好タイムを連発してギャップを拡げていく。
わずかな差を挟んで両者のせめぎ合いが続くなか、298周目に8号車トヨタがピットイン。ハートレーは4スティント目に入った。残り約2時間半、フェラーリも翌周にピットストップを行い、トヨタと同様にタイヤ交換を実施。さらにドライバーをジョビナッツィに交代してコースに戻す。ピットイン前の2台のギャップは約19秒だったが、ピットアウト直後は15秒に。ハートレーは引き続き自己ベストを連発し305周をカウントした時点では約11秒差とした。
スタートから22時間05分、ラップ数が309周となったところで8号車がピットイン。ハートレーから平川亮にドライバーが替わる。タイヤはそのままだ。前回と同様にフェラーリは翌周にピットへ。ジョビナッツィが2スティント目に入った。
2台のピットアウト後のタイム差は16秒とやや拡がる。314周目、ジョビナッツィを追いかける平川のトヨタがアルナージュコーナーでストップしている姿が国際映像に映し出される。8号車は同コーナーの侵入時にリヤタイヤをロックさせると同時に姿勢を乱し、フロント、リヤの順にウォールにヒットしてしまった。
幸い8号車はピットまで自走で戻ることができ、ガレージに入れられることなくピットレーン上でマシン前後のカウルが交換された。トヨタはタイムロスを最小限に抑えて再度平川をコースに送り出したが、首位フェラーリとの差は大きく開きほぼ1周差の3分22秒差に。また3番手の2号車キャデラックとのギャップは2分40秒に縮まった。
レース残り1時間8分、首位を走る51号車がルーティンのピットに入り、ジョビナッツィからピエール・グイディへとドライバー交代が行われる。トヨタは残り56分のタイミングでピットイン。3番手2号車キャデラックはその直前でピットに入った。いずれのクルマも問題なくコースに復帰しトップ3のポジションを維持している。
51号車フェラーリは最終盤25分を切ってところで最後のピットに入ったが、ここでふたたび再スタートできないトラブルが発生する。誰もが目も見開く事態となるなか、タイムを失いながらもなんとか始動した51号車。2番手トヨタが約50秒差に迫ったが、その後8号車もラストピットに入ったため2台のギャップはふたたび拡大した。
最終的に51号車は342周をラップし、現地16時過ぎにトップチェッカーを受けた。半世紀ぶりのワークスプロトタイプ復帰イヤー、そして記念すべきル・マン100周年大会のウイナーとなったフェラーリにとって、今大会の成功は1965年にマステン・グレゴリー、エド・ヒューガス、ヨッヘン・リントのアメリカNARTチームのフェラーリ250LMが優勝して以来、10度目のル・マン総合優勝となっている。
トヨタは1分21秒及ばず総合2位でのフィニッシュに。表彰台の最後のスペースとなる3位は2号車キャデラックが獲得した。姉妹車3号車キャデラックが4位、5位には今大会のポールシッターとなった50号車フェラーリが入った。グリッケンハウス007は708号車、709号車が6位、7位完走を果たし、“耐久の雄”ポルシェを上回ってみせた。そのポルシェはトラブルが相次ぐなか満身創痍の5号車が最終盤にピットを出て、ポルシェ963でル・マンの最初のチェッカーを受けている。地元プジョー勢は93号車プジョー9X8が9位を得た。

■ドライブスルーと無線トラブルをものともせず逃げ切り成功
LMP2クラスは、レース中盤から力強くレースをリードしてきたインターユーロポル・コンペティションの34号車オレカ07(ヤコブ・スミエコウスキー/アルバート・コスタ/シェーラー組)が圧勝するかと思われるなか、20時間過ぎにSC手順違反のドライブスルーペナルティを受け、これで貯金の多くを吐き出すことに。
さらにレース終盤にかけては、チームWRTの41号車オレカ07がペースを上げて肉薄。残り40分の段階で両車のギャップは10秒を切った。また、この頃34号車は無線にトラブルが出ていたのかピットではメカニックが慌ただしく手作りのボードを用意し、テープで「BOX」の文字を提示して最後のピットインを促す姿も確認できた。
残り36分、2番手41号車がスプラッシュ・アンド・ゴーでピットアウトする。対する34号車もライバルの翌周に無事ピットイン。最後の給油を行いラストバトルに向かう。ファビオ・シラー駆る34号車はこの戦いを制し、見事トップチェッカー。最終的に41号車を21秒引き離してみせた。
クラス3位は、残り1時間あまりの段階で一度はコース上で抜かれたものの、31号車オレカ07(チームWRT)の最終盤ピットインによって順位を取り戻したデュケイン・レーシングの30号車オレカ07が獲得している。
■日本人トリオが初出場・初完走
カテゴリー最後のル・マンとなったLMGTEアマの勝者は、今季限りでのワークス活動終了が明らかにされているコルベット・レーシングの33号車シボレー・コルベットC8.R(ニッキー・キャツバーグ/ベン・キーティング/ニコラ・バローネ組)。ピットストップ毎にトップが入れ替われる戦いから一歩抜け出し、最後は後続に2分差をつけての圧勝を飾った。
クラス2位は終盤にアイアン・デイムス85号車ポルシェ911 RSR-19とのバトルを制したORT・バイ・TFの25号車アストンマーティン・バンテージAMR。3位にはGRレーシングの86号車ポルシェ911 RSR-19が入り、3メーカーが表彰台を分け合うリザルトとなっている。
日本勢は横溝直輝/辻子依旦/ケイ・コッツォリーノ組のケッセル・レーシング74号車フェラーリ488 GTEエボが9位フィニッシュで初出場・初完走を達成した。一方、一時はGTEアマクラストップを走ったケッセル・レーシングの木村武史組57号車フェラーリ488 GTEエボは、タイヤトラブルに起因するクラッシュがあり悔しいリタイアに。
また、星野敏と藤井誠暢が乗り込んだDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMRは、電気系トラブルによってギアセレクターが動かなくなり、最後は全電源を喪失するかたちでリタイアを余儀なくされている。
章典外の特別枠“ガレージ56”から参戦したジミー・ジョンソン/マイク・ロッケンフェラー/ジェンソン・バトン組のNASCARシボレー・カマロZL1は、終盤にガレージで修復作業を受ける場面もあったが285周をラップ。総合39位でル・マンのチェッカーを受けた。
シリーズのハイライトであるル・マン24時間を終えた2023年WECの次戦は、7月7~9日にイタリア、モンツァで開催される第5戦モンツァ6時間レースだ。

