■追い求めた技術を買ってもらえない

 しかしそんな2016年から17年にかけて、武士はある悩みを抱える。

 武士はこのプロジェクトの『3カ年計画』のなかで、若手を育て、土屋春雄の技術とスピリットを伝承し、そして最強プライベーターを復活させるために、投資をしてきた。GT300マザーシャシーは、自らがプロドライバーとして稼いできた資金の「ほぼ全部を突っ込んで」買った。また、武士とVivaC team TSUCHIYAを支える“仲間たち”、そしてサムライサポーターズが支え、これまで3年間活動を行ってきた。

 チームは資金的に決して潤沢ではない。しかし武士は、「『レースはやっぱり人を育てる』という場があって、情熱ある人が集うことで、レースの魅力がもっと深くなるだろうと思っていたし、そういう場があることがレースの本質であって欲しいと思っていた。僕はレースが大好きだから」という思いで3年間続けてきた。

 きっと、その目的地に達成したとき、「やっぱりレース界にはこういうチームは必要だよね」という思いをさまざまな人が持ってくれて、復活したつちやエンジニアリングの技術を「買ってもらえる」だろうと考えていたのだ。

 しかし、2016年にチャンピオンを獲った後、「何も変わらなかった」と武士は言う。もちろん武士はチーム代表としての顔をもっている。ただ黙ってマシンをいじり続けていただけではない。しかし、VivaC team TSUCHIYAを強力にサポートしてくれるような企業は、現在のところ現れていない。

「正直、『こういうチームを存続させる協力をして欲しい』という話はいろいろなメーカーさんや企業さんにもした。個人個人では、みんな応援してくれる。でも、会社に戻るとなかなかそうはならない事情もある。これは当然どの社会でもある現実だとは思うけど、それは仕方ない」と武士は言う。

「でも実際に支援は必要だし、そうでないと続けるのは難しい。ここまでは個人の気持ちと支援でたどり着けたけど、『モータースポーツを文化にしなければいけないね』という使命をもっている、力を持っている企業だったり、大きな支援をできる企業が出てきてくれると思っていた」

「ここまでは個人の仲間の思いで来られたけど、この先ってなかなか無理だよな……と。正直、自分がやりたいことに、みんなを巻き込んだかたちでスタートしている。でもこの先は、みんなを巻き込んではいけないのではないかと思った。この先は、つちやエンジニアリングみたいなチームが必要だと思ってくれる、モータースポーツを文化だと思ってくれる企業が支援してくれて、ステージを作ってくれないと……、個人の思いだけではなかなか続けられない」

 武士の悩みは、オートポリスで勝利を飾った頃、ピークに達した。レースは勝てた。でもその技術は買ってもらえない。その頃の思いを、武士はこう振り返る。

「何も変わらない現実を突きつけられた。技術者としてできる限りのことをしたけど、その先のカベは突破できなかった。オートポリスで優勝した後は、突破できなかったショックの方が大きかった」

 このままでは、父と同じように、技術力をいかにアピールして、勝利を重ねたところで、その先は仲間たちを巻き込むだけになってしまう……。この頃の武士は、SNS上でも悩みの一部を吐露していたが、それを見た方も多いだろう。武士は自らのなかで「これ以上みんなに何かしらのかたちで返せる自信がない。もう止めよう」という結論に至り、6月初旬、サポートしてくれる仲間たちを集め、こう伝えた。

「もうこれ以上みんなに甘えられないので、来年はもう続けられない。次の目的地を見つけるまで、いったん止めようと思います」

スーパーGT第3戦オートポリスでポール・トゥ・ウィンを飾ったVivaC team TSUCHIYA
スーパーGT第3戦オートポリスでポール・トゥ・ウィンを飾ったVivaC team TSUCHIYA

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