また、オーバーテイクが難しくなるだけでなく、レースが台無しになる可能性もある。ドイツツーリングカー選手権(DTM)のあるドライバーは昨年、ほかのマシンにほんの少し触れる程度の接触をしただけで、マシンバランスが崩れ、レースが終わってしまったとコメントしている。
「接触した感覚すらなかった。それくらい軽い接触だったんだ。それでもフロントディフューザーが壊れてしまい、レースを戦うことができなくなった」
「本当に奇妙な出来事だよ。誰にもぶつかっていないと感じているのに、実際には接触していたんだからね」
ウイングレット導入の初期段階から、ここまでの事例が発生するとは考えていないものの、DTMでも、まずはほんの小さな空力デバイスから導入された。そして、現在はマシンの開発が凍結あるいは制限されているため、エアロダイナミクスが競争の最前線となっている状況だ。
マニュファクチャラーたちは、ほんのわずかなアドバンテージを得るために大金をつぎ込んで開発を行っており、MotoGPでも同じことが起こるだろう。そして、時が経つに連れ、装着されるウイングの枚数が増えていくことになる。
もちろん、ウイングレットが高いパフォーマンスを秘めていることは間違いない。エンジンパワーで劣るドゥカティのデスモセディチGPがカタールであれだけのリードを築くことができたのだから。各メーカーもこの分野への投資を望んでおり、ルールが改定されるまでは彼らにもその権利が残されている。
今年、MotoGPにもたされた大きな変化はマニエッティ・マレリ製の共通ECUが導入されたことだ。これにより、各メーカーが大量の資金を投入していた開発競争に終止符が打たれた。
このようにレギュレーションでコストを厳しくコントロールすることができれば、空力開発を解禁しても問題ないのではと考える人もいるだろう。
しかし、風洞実験に関して厳しい制限が課されているF1でさえ、毎戦大量の新エアロパーツが登場しているのが現実だ。競争の激しい世界では、資金力は知識力と同義であり、それは結果とも直結しているのだ。
このような意見に対し、マニュファクチャラーたちは反対する立場を取っている。例えばドゥカティは、16年型マシンはウイングレット装着を前提に開発しており、これを失うことで不利益を被るとしている。
MotoGPはF1が40年前に犯した過ちを繰り返さないようにするべきだ。2008年のF1マシンのような見苦しいレーシングマシンが誕生することは避けねばならない。
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