こうした機構の技術開発・設計を受け持ったのは、ベルギーにあるパンチ(Punch)・パワートレインという専門企業。次世代トランスミッション開発にあたってステランティスがジョイント・ベンチャーの相手として選んだのだが、その技術系譜を遡ると、かつてゴムベルト式CVT(ヴァリオマチック)を使う小型乗用車を生産販売していたオランダのダフ(DAF)に行き着くのだという。
ダフが乗用車生産から撤退した後、その創業者一族が動力伝達機構に特化して、プッシュ型金属ベルトとそれを使うCVTを生み出したのがファンドーン(Van Doorne)社で、この企業そのものは後にボッシュ傘下へ。今、日本で作られる金属ベルト式CVTは、シェフラー社のチェーンを世界で唯一使うスバルを除いて、すべてこのファンドーンのお世話になっているのである。
パンチ社の会社紹介によるとポラリスのオフロード4輪バギー用に、今も金属ベルトCVTを作っているとのこと。でも、常用する幅広い速度・負荷域で伝達損失が大きい(実走に即してちゃんと計測・計算したデータがなかなかないのだが、負荷の小さいところでは金属ベルトであっても伝達効率70%=30%がトランスミッションの中で失われる、というのが駆動機構専門家の中の常識)CVTは、自動車用トランスミッションとして今・これから使える機構ではない、というのが日本を除く世界の認識なのが、このステランティス+パンチの新規開発の基本選択にも現れている。

●『お受験対策』に相性のいいCVT
では日本勢だけがなぜCVTを使い続けているのか。結局のところ、低負荷・緩加速を組み合わせた走行パターン(モード)で試験を実施する従来の排ガス・燃費試験への『お受験対策』として、エンジン回転をできるだけ低く保ちつつ、連続変速で車速を合わせ込むことを続けてきたから。でもその試験モードもいまや世界共通のWLTC(Worldwide harmonized Light vehicles Test Cycle)に移行し〜とはいえ日本では四つ設定されている走行パターンのうち、80〜130km/hをカバーする“Extra High”は『国内走行実態の5%に過ぎない(100km/h超の速度規制緩和の実施前)』という理由づけで公的試験から除外しているけれど。
つまり同じ車種でも国内では日本以外の燃費公称値より良くなることが起こる〜、さらに遠からず実路・実走行で計測したデータを整理するRDE(Real Driving Emission)に移行すべく、世界的な検証・調整が続いている。そんな状況の中で、日本車・企業だけがCVTに固執する流れの中で、エンジンは駆動力増減要求が入っても過渡応答がぼんやりと鈍く、加速はCVTに頼りきりで(アクセルペダルを踏み込むとエンジン回転だけがブゥーンと上がり、駆動力〜加速が現れるのが遅れるのを、欧米では『ラバーバンド・フィール』と呼んで嫌われる)、実用燃費は公称値と乖離し、ハイブリッド動力化の中で『どこをどうモーターで“押す”のがいいか』の理論+実用解析も進まない、という状況に停滞している。この話、問題の根が深いのと、一般だけでなく自動車専門家の中でも認識が薄い(薄すぎる)ので、今後も折々に触れてゆくことになると思います。
●自然な「右足」への反応
さて、話をステランティス各車に一斉に導入されたDCT+48Vハイブリッド動力システムに戻して、ここからは実際に走ってみた話へ……。
停止からブレーキペダルを離すとクルマを軽く押す『クリープ』発生。それに合わせるようにアクセルペダルをスッと踏み込むと最初の動き出しまではモーターが“押す”。これはいまや当たり前。ついでに触れておくと、ハイブリッド動力ではエンジンにとって最も苦手、かつ燃費悪化に直結する停止からの発進は、モーターが受け持つもの。なのでこれからのクルマは、車両が止まっている状態ではエンジン休止が基本。アイドリングストップは『違和感がある』ので止めたら、などという話は、そうした必然性を理解していないところからのもの。
モーター出力が大きくないのと電池容量も少ないので、発進からさらに加速に入るとエンジン始動。3008、600はごく軽くエンジンが揺れる感触があって、燃焼の音・振動が始まるだけだが、アルファロメオ・ジュニアはここでパワーパッケージ全体がちょっと揺動する。エンジンは各車同じ3気筒1.2リッターにターボ過給を組み合わせたユニットで、細かく観察すると直列3気筒特有の回転1次(エンジン回転速度と同じリズム。例えば1500rpmで25Hz)の軽いビートは出ているが、素直な回り方をするのでその振動をとくに意識させられることはない。
1600kgある3008でも“ちょっと押す”力が欲しい時にはまずモーターが仕事をして、その先、もっと速度を伸ばして行く状況ではターボの過給圧が高まってエンジントルクそのものがグッと強まるので、このクルマを走らせる力感としては十分。むしろ車重が軽いジュニアで、モーターが押す瞬間からちょっと間があってターボの過給圧が高まることが多く、ここでトルクが強まる段つき応答が出がちだった。
そうはいっても、アクセルペダルを踏み込む、止める、戻すという“クルマを押す力”をコントロールする右足の動きに対するパワーパッケージ全体としての反応(これが本来の意味での『レスポンス』)、そこでどう追随してくるかのドライバビリティについては、日本のハイブリッド動力、エンジン+CVTとは比較にならないほど自然。こうなっていないと、世界に、とくに欧州のユーザーには通用しない。

●国産ハイブリッドと同等燃費
そうなると、次の問題は『燃費』。この分野では今、ドイツ勢が世界をリードしている。以前にも紹介したようにフォルクスワーゲン・ゴルフの48Vマイルドハイブリッド(MHEV)組み込みベーシックグレードは、高速道路巡航で25km/L、一般道や渋滞も複合した走行で20km/Lをマークすることを確認済み。BMW523iは2リッター過給エンジンで1800kgもあるボディを走らせつつ、高速道路巡航で20km/Lかそれ以上、峠道まで含む複合パターンでも16km/Lをマークしてみせた。
これに対してステランティスの48V・MHEVは、コンパクトカーの600(走行距離を稼げていないけれど)、ジュニアで高速道路巡航20km/L、複合パターンで16+km/L。車重1620kgある3008では高速道路巡航20〜22km/L、複合パターンで14〜16km/Lといった状況。大雑把に言って、ドライバビリティはクルマ側の都合で決まる日本のハイブリッド車を、丁寧に扱った時とほぼ同等かと。
なお日本車でメーター内に表示される平均燃費の値は5〜10%甘い、というのが私の長年の経験値なので、皆さん要注意。まず満タン法、それもできれば同じスタンドの同じポンプで、一応は給油自動停止をめどに、ある程度の距離を走っての給油を繰り返して、車両側表示と比べてみれば、その乖離が確かめられます。
もっと精密に、ということなら、高速道路のガードレール付近に掲示してある起点からの距離標の数字と、自車のトリップメーターの積算値を、50km、100kmの距離を走って比較して較正値を求め、これで算出して走行距離と給油量から燃費を計算する。私はこうした方法、そして走行する距離を測って確かめてあるコースを、できるだけ同じ速度変化で走っての実燃費計測など、振り返れば何百台かやってきました。最近はサボってますが(笑)。


