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投稿日: 2021.01.07 16:00
更新日: 2021.01.07 16:09

レース観戦の新たな環境作りが必須。その秘策は?【大谷達也のモータースポーツ時評】


コラム | レース観戦の新たな環境作りが必須。その秘策は?【大谷達也のモータースポーツ時評】

 モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、国内外のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。

 第6回目のお題は『2020年のモータースポーツ取材の総括と2021年のモータースポーツ業界の展望』です。

 2020年シーズンは、新型コロナウイルスの影響で世界中のレースが中止という『闇』に包まれました。前代未聞の状況に陥っても、レースに関わるすべての人が一体となり、立ち向かった結果、多くのレースで例年にない熱戦が繰り広げられました。

 2021年も不安要素が色濃く残ります。しかし、多くの人がレースを楽しめる環境作りのためにやれることは、たくさんあるのです。

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 新型コロナウイルスに翻弄された2020年が幕を閉じ、新しい1年が始まりました。

 いまさら私がここで申し上げるまでもなく、2020年はモータースポーツ界にとっても本当に大変な1年でした。

 感染症を防止するために多くのレースイベントが無観客で行なわれ、主催者やエントラントの行動も大幅に制限されました。

 私たちモータースポーツを取材する立場でいえば、そもそも取材許可が下りなかったり、渡航の機会が制限されたほか、現場に着いてからもドライバーやチーム関係者との接触を最小限に留めるように要請されたため、生の声を聞くチャンスは極端に減りました。

 これは、ちょっとした立ち話をきっかけにして取材のテーマを決めることが多かった私にとって、とても大きな打撃となりました。

 それでも、世界中のサーキットで幾度となく熱戦が繰り広げられたことはご存じのとおりです。

 たとえばスーパーGT最終戦での奇跡の逆転劇。スーパーフォーミュラでもチャンピオン争いは最終戦までもつれ込み、予断を許さない展開に多くのファンが手に汗を握る興奮を味わったことでしょう。

 F1は2020年シーズンもルイス・ハミルトンとメルセデスの圧勝に終わりましたが、2位以下の戦いは見応え充分。2021年は、そういった勢力の躍進も期待できそうです。

 そしてアメリカでは佐藤琢磨が伝統のインディ500で通算2勝目を達成。さらに、WEC世界耐久選手権ではトヨタが圧勝し、WRC世界ラリー選手権でもドライバー選手権はトヨタのセバスチャン・オジエが制しました。

 これほど多くの熱戦が見られた理由は、いったいどこにあったのでしょうか?

 私は、ドライバーやチーム関係者がいつも以上の意気込みでイベントに臨んだからではないか、と想像しています。

 すべてのレースイベントが延期や中止となっていた2020年の春先から夏にかけて、ドライバーたちはこれまで当たり前のように戦ってきたレースがいかに尊く、また愛おしい存在であるかに思いを馳せたはずです。

 そして実際にイベントが開催されるようになった夏以降、彼らはそれまで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのような激しい闘争心でレースに挑み、勝利を目指して駆け抜けていった……。彼らの熱い思いが、驚くような戦いを生み出す原動力になったというのが私の推測です。

 こうした熱い思いを抱いていたのはドライバーだけでなく、チーム関係者も同様。さらにいえば、難しい環境のなか、イベントの実現に漕ぎ着けたレース主催者やプロモーターの努力も忘れるわけにはいきません。

 いえ、彼らの苦労を間近で見ていればこそ、エントラントはなおのこと発奮したのでしょう。結果として私たちは好バトルや熱戦を数多く目の当たりにすることができたわけですが、今後のことを考えると喜んでばかりもいられません。

 まず、主催者やプロモーターは無観客ないし観客数を制限してイベントを開催したことでチケット収入が激減。さまざまな都合により支援を取り止めたスポンサーも存在したと推測されます。これはエントラントにとっても同じこと。さらに感染症対策のために予想しなかった出費もあったはずです。結果として、ビジネス面では極めて苦しい1年になったと考えられます。

無観客のインディアナポリス・モータースピードウェイで開催された第2戦GMRグランプリ
無観客のインディアナポリス・モータースピードウェイで開催された第2戦GMRグランプリ

 さらに悪いことに、2021年にこういった足かせが解消されるという保証はどこにもありません。それどころか、F1では早くも開幕戦オーストラリアGPの延期が確定的になりました。今後も状況次第ではイベントスケジュールの見直しや観客動員数の制限が実施される恐れが絶対にないとは言い切れません。

 その意味で、モータースポーツ界は危機を完全に脱したとはいえないように思います。
 
 では、どうしたらいいのでしょうか?
 
 すべての問題を解決する妙案が私にあるわけではありませんが、観客動員に制限がかかったなかでイベント収入を増大させるひとつの方法として、音楽イベントで採り入れられたネット配信がひとつのモデルケースとなるような気がします。

 無観客で開催された多くのコンサートがネット経由で有料配信されたことは皆さんもよくご存じのはず。私も年末に行なわれた嵐のファイナルイベントをリモートで視聴しましたが、これが予想外に感動的で、あっという間に嵐のファンになってしまいました(笑)

 しかも家族で楽しめるのですから5000円を超す料金も決して高いとは思いませんでした。

 モータースポーツイベントにも同様のことがいえるのではないでしょうか?

 現在も有料のレース中継は存在しますが、その売り上げだけでイベントを商業的に成立させるのは難しいでしょう。

 それは、現在のレース中継が一定の入場者がいることを前提にビジネスモデルを構築しているからです。そうではなく、リモート配信の売り上げだけで、レースイベントが開催できるように発想を転換するのは、いかがでしょうか?

 そのためには配信料の引き上げが不可欠となりますが、それに見合った演出ないし顧客メリットを提供できるのなら、これを受け入れるファンも少なくないのではと考えます。

 もちろん、サーキットで味わえるサウンドや熱気はほかに代え難いものですが、それは音楽イベントも同じこと。しかも、レース観戦には遠方までの交通費や宿泊代などが付きものでしたから、もしも数千円のリモート配信料で家族全員が楽しめるなら、むしろそのほうが安上がりという考え方も成り立ちます。

 これまでは経済的ないし時間的な理由で観戦できなかった地方イベントを全国のファンが楽しめるのも、リモート配信のメリットといえるでしょう。

 これを成功に導くには、リモート配信にいままでなかった価値を付け加えられるかどうかにかかっているように思います。この点を克服できれば、コロナ禍が去ったあとでもイベント主催者やプロモーターは新たな収入源を確保できるわけですから、考えてみても損はないはずです。

 新しい時代を乗り切るには、柔軟で新しい発想が必要です。モータースポーツ関係者の皆さんにはこれまで以上の発奮を期待したいと思います。

2020年F1第8戦イタリアGP グランドスタンドのバーチャル観客
2020年F1第8戦イタリアGP グランドスタンドのバーチャル観客


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