すでにチャンピオンを手にしているバトンにとって、F1は、ただ運転するだけでは満足できない世界となっている。結果だけが欲しいのではない。たとえ下位でフィニッシュしても、可能性が感じられたり、喜びを取り戻せる何かを見出すことができればモチベーションを保つことはできる。しかし昨年のマクラーレン・ホンダには、それがなかった。

「自分で決めるしかない」

 バトンが下した決断は、マクラーレン・ホンダでの現役続行である。バトンはチームを、ホンダを信じて、もう一年、茨の道になるかもしれない道を選んだのである。そのような思いをして、たどりついた予選5位。セバスチャン・ベッテルとニコ・ロズベルグの5番手降格ペナルティによって3番手に繰り上がったグリッドでスタートの瞬間を待つバトンの心に、特別な思いがこみあげていたとしても不思議ではない。

 オーストリアGPのバトンが、いつもと違ったのはレース序盤の走りにも現れていた。予選後、長谷川総責任者は、メルセデス、フェラーリ、レッドブルというトップ3チームとの直接対決については現実的なコメントを発していた。

「レースでは早々に前へ行かれてしまうと思います。あまり頑張りすぎて、5周でタイヤが終わってしまわないように注意したい。そして、本来のライバルであるフォース・インディアやトロロッソとの戦いに備えたい」

 しかし、バトンはスタートでフォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグをかわして2番手に浮上すると、7周目に逆転を許すまでフェラーリのキミ・ライコネンを抑えたのである。この粘りによって、4番手に下がったヒュルケンベルグはアンダーカットを狙うため、8周目にピットインすることとなった。バトンの序盤の走りが、フォース・インディアだけでなく、ウイリアムズやトロロッソを上回るレースができた最大の要因だった。

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