さてオーストリアでは、この2019年シーズンに使っているタイヤを、2018年仕様のタイヤに戻すかどうかの投票が行われました。ちなみに今年使っているタイヤというのは、昨年のスペインGP(バルセロナ)、フランスGP(ポール・リカール)、イギリスGP(シルバーストン)の3レースで使われた、通常のタイヤよりもトレッドの薄いものです。

 その薄トレッド仕様のタイヤを今年は全レースで使っているのですが、今シーズンのレースを見ると「タイヤがうまく作動しない」といった話題が多いと思います。以前のコラムでも書いたように、それほどタイヤに左右されているということですが、どうしてこういう状況になったのかといえば、やはり昨年のチャンピオンであるメルセデスの要望があったからです。

2019年F1第8戦フランスGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 このタイヤはトレッドが薄いぶん、タイヤがたわまないのでなかなか温度が上がりません。しかしメルセデスのようにタイヤに高い負荷をかけることができるクルマがあれば、きちんとタイヤ温度を適切な温度まで上げることができ、タイヤはそれなりのグリップを発生します。仮にタイヤが適切な温度に達していない時に無理して走ってしまうと、タイヤは滑るだけでどんどんと深みにハマってしまいます。

 F1では、チームの力などでルールを変えて、自分たちに有利な状況へ持っていこうというのも競争のひとつです。表からは見えない部分での競争ではありますが、少し遡ると、フェラーリがブリヂストンタイヤを使ってミシュラン勢と戦っていた時代は、お互いにルールを変えて自分たちに有利になるようにしていましたよね。クルマももちろん開発するけれど、それに加えて自分たちにとって有利な方向へルールを変えていこうとすることもF1ではとても重要な駆け引きの一つです。これは他のスポーツ、たとえば野球、サッカー、ラグビーなどでは見られない、F1の独特な側面です。

 今回の件も、全レースでトレッドの薄いタイヤを使うとどれくらい使いにくいタイヤになるのかを事前にわかっていたのかといえば疑問はありますが、僕もここまでひどくなるとは思っていませんでした。あまりにも不満が多いし、昨年仕様に戻すことはそれほど難しいことではないということで、チーム代表の間で投票になりました。

 これは競技規則でも技術規則でもそうですが、今の状況だとパワーユニットのマニュファクチャラーによる政治になります。メルセデスが『今年仕様のままでいきたい』ということは、メルセデス製パワーユニットを使用するレーシングポイントとウイリアムズは、自動的にメルセデスの意向で『今年仕様のままでいきたい』という意向を示さなければいけません。

 もちろんウチは昨年仕様に戻したいですし、フェラーリも戻したいと考えています。ですがたとえばフェラーリが戻したくないとしたら、ウチとアルファロメオはフェラーリの意向に従うことになります。

2019年F1第8戦フランスGP セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
2019年F1第8戦フランスGP セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)

 つまり基本的にフェラーリとメルセデスが3票持っていて、ホンダが2票、という話になります。あとはルノーですが、ルノー製パワーユニットを使用するマクラーレンはうまく今年のタイヤに対応した開発を行えているようですので、今の状況で満足していると考えます。

 一方、本家のルノーはうまくいったり、いかなかったりですよね。フランスでは良かったけれど、オーストリアではうまくタイヤを使えなかった。彼らの意向はわかりませんが、フランスの前までは変えたいという意向だったのではないでしょうか。でもフランスで良いレースができたので、仕様変更を行わない方向性にしたようです。結局、投票結果は賛成と反対が5票ずつで、仕様変更に必要な7票には届きませんでした。

 ただタイヤメーカーには、安全上の問題があるといえばタイヤの仕様を変えられる権限があります。昨年トレッドの薄いタイヤを3レースで使ったのも、投票による決定ではありませんでした。ピレリが「通常のタイヤでは危ないから、トレッドの薄いタイヤを使う」と判断したのです。

■単純な技術勝負では勝てないF1で勝つために必要な“力”

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