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F1 ニュース

投稿日: 2020.10.29 14:55
更新日: 2020.10.29 14:59

【中野信治のF1分析第12戦】躍動するガスリー。リヤ重視のスタイルとフェルスタッペンとの乗り方の違い

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F1 | 【中野信治のF1分析第12戦】躍動するガスリー。リヤ重視のスタイルとフェルスタッペンとの乗り方の違い

 もちろん、ドライバーが10人いれば10人それぞれクルマの感じ方は違うのですが、ガスリーはチームメイトのダニール・クビアトともまったく違うスタイルですし、それこそマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)ともまったく違うドライビングスタイルです。

 基本的にガスリーは、マシンのリヤのグリップがしっかりしていないとパフォーマンスを発揮しきれないドライビングスタイルだと思います。後ろがしっかりしていて安心感があり、普通のドライバーだったら『アンダー気味だな』と思うようなクルマを、フロントのグリップを上手く感じながらコーナーで曲げていくドライバーですね。

 逆にフェルスタッペンは多少後ろが不安定で、少し滑っていても前に進ませていくイメージがあります。そもそもフェルスタッペンはガスリーのドライビングスタイルとは違い、フロントを軸にして走らせています。ですが、フロントを軸にしながらも、その中での薄いリヤのグリップを、他のドライバーが『1』感じるところをフェルスタッペンはたぶん『5』くらい感じられるのだと思います。リヤが不安定なクルマに乗ったときに、実はそこが圧倒的な差になってきます。

 そう考えると、昨年同じレッドブルのマシンで、フェルスタッペンとガスリーのパフォーマンス差があれだけ大きかったというのもイメージがつきますよね。リヤが不安定なマシンでは、後ろをどう感じているかでかなり変わってきます。

 もしガスリーが自分好みのマシンに乗ることができれば、フェルスタッペンとの差もそこまで大きくは付かないでしょうし、限りなく近づいて行けるのではないかと僕は思います。たとえばレーシングポイントのマシンにフェルスタッペンとガスリーが乗ったとしたら、そこまで差は付かないと思います。むしろガスリーが勝つ可能性だってあります。

 今のレッドブル・ホンダのマシンは、フェルスタッペンが乗りこなせるマシンにはなっていますが、それでもフェルスタッペン的にもベストではないと思います。どちらかというと、フェルスタッペンの許容範囲に『なんとか収まっている』マシンという感じですね。

 ですので、他のドライバーが今のレッドブル・ホンダのマシンに乗ると、その許容範囲を簡単に超えてしまいます。それこそアレクサンダー・アルボンが今まさにその状態です。昨年以上にそのあたりシビアになっているので、アルボンが昨年のガスリー以上に苦しんでいることは、そのクルマの特性の部分が大きいのかなという気がします。

 そのフェルスタッペンも、今回のレースではミディアムタイヤでスティントを引っ張り、上手くタイヤマネジメントをしていました。フェルスタッペンは、攻めつつもタイヤマネジメントをするのは上手いですね。

 彼もステアリングを切っている時間がすごく短いドライバーなので、そういった意味ではタイヤに対してすごく優しいドライバーです。フェルスタッペンは、タイヤに対してかなり攻撃をしてそうなスタイルのドライバーですが、実際はそうでもなく、上手くクルマの慣性を利用して向きを変えている印象ですね。

 そしていつものことなのですが、最終的にはメルセデスの2台です(苦笑)。やはりルイス・ハミルトンは1周のスピード『だけではない』ドライバーですね。今回のレースで言えば66周、ずっとギリギリのところを攻めながら、かつタイヤマネジメントもしなければならないところで、チームメイトのバルテリ・ボッタスと差がついています。

 ハミルトンとボッタスが同じようなタイムで走っていても、ハミルトンの方が元々のスピードだったり、タイヤマネジメントの感覚が元々高いので、若干余裕がある状況に見えました。タイヤに対しての攻撃性なども、ハミルトンの方がボッタスよりも上手くコントロールして走れているように見えますよね。それが10周、20周、30周も走るとかなりの差になってしまいます。

 もちろん、ボッタスも決して遅くはないんですけれど、ハミルトンが本当に上手くなっています。予選だけを見れば『今回はボッタスが良いな』ということを思うのですが、決勝になると不思議と数十秒差がついてしまうんですよね(苦笑)。

 あとは今回、気になったこととしては『風』ですね。レースを見ているとかなり風が強そうでした。フォーミュラーカーは風の影響をすごく受けるので、ドライバーにとって『風向きが変わる』ということはかなり影響が大きいです。向かい風になるとダウンフォースが増えてフロントがどんどん入っていくクルマになって、ニュートラルなクルマはオーバーステアになってしまうし、逆にアンダー気味だったクルマはちょうどいいステアになります。

 ですが、風向きが異なり、次のコーナーで押されてしまうとクルマがプッシュされてしまい、元々がアンダーステアなマシンだと、さらにアンダーステアになってしまいます。風向きが変わってしまうと『前の周はこんな動きだったのに、この周では動きが変わっている』とドライバーは困惑して、クルマの調子が悪くなったのかと勘違いしてしまいます。無線で風向きのことを聞いていたドライバーもいましたが、ドライバーにとって風向きはすごく気になることです。

 コーナーに入ってからの修正では遅いですし、なんとなく修正するのですが、バランスが崩れるとドライバーもクルマの調子が悪くなったと思い、ペースが落ちてしまいます。ドライバーが『あれっ』と思って一瞬でも守りに入るとタイムは落ちますし、それが続くとタイムは一気に落ちてしまいます。

 ただ、その原因が何によるものなのかが分かっていれば、それに対処していけばいいので、無線で『風向きが変わったよ』と言われればドライバーも予測して対処します。ポルトガルGPでは、各ドライバーが風で苦しんでいる様子も多く見受けられましたね。

 次戦は久しぶりにイモラ・サーキット(エミリア・ロマーニャGP)での開催になります。イモラは僕もジュニアフォーミュラ時代に何度も走っていて、最近だと2016年のヨーロピアン・ル・マン・シリーズのLMP2マシンで走行をしました。

 久しぶりに走った感想としては『本当にちっちゃいサーキットだなぁ』と思いましたね(笑)。コース幅はそれほど広くないですし、コーナリングスピードもかなり低いというか、シケインがあってヘアピンがあってまたシケインという感じで、本当に追い抜きが難しい低速サーキットです。

 今のF1マシンでイモラを走行すると、どんな感じなんだろうとは思いますね。カートコースをフォーミュラカーが走るイメージですね。路面ミューもそれほど高くなくてバンプもあります。そのあたりでマシン特性の差が結構出るのかなとも思いますね。そう考えると、あまり空力が使えないサーキットなのでレッドブル・ホンダはちょっと厳しいのかな……とも感じます。

 ただ、イモラは曲がりこんでいるコーナーは少なくて、ステアリングを一発で切って曲がっていくコーナーが多いサーキットです。そのあたり、ドライバーの技で何とかできるサーキットでもありますが、バンプのこなし方や縁石の使い方も含めて、簡単そうに見えてめちゃくちゃ難しいサーキットでもあります。今までのサーキットと違い、ドライバーの技の見せどころになりそうですので、そういった意味では、いつもとは少し違った結果が見えてくるかもしれないので非常に楽しみですね。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT 中野信治監督
2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのチーム監督を務める中野信治氏。DAZNでF1中継の解説も担当


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