F1チーム首脳陣のコメント、あるいは質問により引き出された答えからは、今のチームやF1全体の状況や課題が読み取れることが多い。F1ジャーナリストのクリス・メッドランド氏が、ひとりのチーム首脳にフォーカスし、その人物の言葉をまとめ、そこから見えてきたトピックを取り上げる。今回はアルファタウリ・ホンダのチーム代表フランツ・トストに焦点を当てた。

────────────────────────

 2022年のF1暫定カレンダーが公表され、来シーズンには史上最多の23戦が行われることが正式に発表された。

 発表前からF1のCEOステファノ・ドメニカリがそれについては話していたし、今シーズンも元々は23戦開催の予定だったので、意外なことではない。

 問題は、23戦も開催されるということよりも、そのスケジュールにある。今年は3月から12月までの間に22戦が開催される。だが、来シーズンは、FIFAワールドカップと重なることを避けるため、最終戦が11月に繰り上げられる。つまり、今年より1戦多い23戦がより短期間に詰め込まれ、連戦が増やされるのだ。

 F1関係者の多くがこのカレンダーをよく思っていない。F1がパンデミックを乗り切るため、皆が貢献してきた。しかし時を経ても、さらなる犠牲を求め続けられているからだ。

 そんななかでアルファタウリのチーム代表フランツ・トストは、過密スケジュールに不満を持つ人々に対する批判的な発言を行った。

2021年F1第16戦トルコGP フランツ・トスト(アルファタウリ代表)
2021年F1第16戦トルコGP フランツ・トスト(アルファタウリ代表)

 トルコGPの金曜記者会見において、「これほど過酷なスケジュールに対応しなければならない従業員をメンタルヘルスの面で助けるために、チームとして何を行っているのか」という質問に対して、トストはこう答えた。

「(来年は)23戦が行われる。素晴らしいではないか。FOMはいい仕事をした。私としては楽しみだ」

「サーキットの現場で仕事をするスタッフについて言うと、まず第一に、我々はレースチームだ。可能な限り多くのレースが開催されることを喜ぶべきだ」

「もちろんスタッフのケアをしている。たとえば、メカニックはレースウイークエンドの後、3日か4日休みがあるので、その間、自宅で過ごせる。広報やマーケティングの仕事でサーキットで働いているスタッフも、レースウイークエンドの後には何日か自由になる時間がある」

「エンジニアはそれに比べると少し厳しい。だが、昔を思い返すと、当時はレースウイークエンドの後にはテストに行って仕事をしなければならなかった」

「我々全員が、F1の仕事をしていること、23戦開催できることを、喜ぶべきだと、私は思う。それが気に入らない人間がいるなら、その人間は去るべきだ」

 つまり、チームスタッフへのメンタルヘルスケアはどうしているか、という問いに対してトストは、現状を喜ぶか、それができない者は去るべきだ、という答えを返したのだ。これに賛同しない人々がいるのは当然のことだろう。

■メルセデス代表は「古いスタイルのメンタリティ」に反対

 トストは普段は非常に好感の持てる人物だ。怒りっぽい面もあるが、チームのためになるとあれば、非常に協調的で誠実な態度を見せる。アルファタウリはレッドブルが所有しているチームであり、チーム代表としての立場は、他チームとは少し異なる部分がある。しかしレッドブル&アルファタウリ(トロロッソ)においてホンダとのパートナーシップを成功させたのは、間違いなく彼の功績だ。

 しかしトストの「いやなら去れ」という発言には、パドック内から批判が寄せられることになった。たとえばメルセデス代表トト・ウォルフは、F1カレンダーとメンタルヘルスの問題について聞かれた際に、トストのこの考え方に自分は全く賛成できないと述べている。

「たとえば、古いスタイルのメンタリティで、『F1にいられることに満足しろ。対応できないなら他のことをやれ』と言うやり方もあるのだろうが、それは私のやり方とは全く逆だ。我々は活動継続可能な環境を整える必要がある」とウォルフは発言している

2021年F1第12戦ベルギーGP 角田裕毅、ピエール・ガスリー、フランツ・トスト代表(アルファタウリ・ホンダ)

 トストは、このスタンスで、F1の世界に入り、チーム代表のポジションに就き、アルファタウリ/トロロッソを15年にわたって率いてきた。65歳にして、年間23戦の過酷なスケジュールに合わせて世界中を旅して回ることを、これほど前向きに考えられることは、称賛に値する。だが、自分と同じように考えられない者は立ち去るべきだという彼の発言に同意しない者は大勢いる。

 今回のコメントが波紋を呼んだことで、自分が2006年にこの仕事に就いたころから世界は大きく変わったのだということ、チームのなかには異なる考えを持っている人々がいるということを、トストは知り、それを受け止めるかもしれない。だがあるいは、自分の意見を変えず、自分のやり方をこれからも貫くかもしれない。後者であれば、彼はパドック内で最も人気のあるチーム代表にはなれないだろう。

本日のレースクイーン

七星じゅりあななほしじゅりあ
2025年 / オートサロン
尾林ファクトリー/東京オートサロン2025
  • auto sport ch by autosport web

    RA272とMP4/5の生音はマニア垂涎。ホンダF1オートサロン特別イベントの舞台裏に完全密着

    RA272とMP4/5の生音はマニア垂涎。ホンダF1オートサロン特別イベントの舞台裏に完全密着

    もっと見る
  • auto sport

    auto sport 2025年4月号 No.1606

    [検証]F1史上最大の番狂わせ
    ハミルトン×フェラーリ
    成功の確率

    詳細を見る