また今回は予選でもふたりの戦略を分けました。Q1では時間的にギリギリのタイミングで3セットのタイヤを使って走る事が可能だったので、ミックは3セット使うことに。2回目のランが一番いいタイムでしたけれど、それでもターン19で0.4秒ほどロスがあったので、それがなければ1分36秒1くらい、Q2のカットオフタイムから0.2秒ほどのところで終われたはずでした。ここ数戦、彼は徐々に自信を築き上げてきていて、トルコでは実力でQ2に進めたわけですし、そういう実績ひとつひとつが自信に繋がっていくので、いい方向に進んでいるのではないでしょうか。
一方でニキータはタイヤを2セット使う戦略でした。今回は路面温度が高くてクールダウンラップが2周必要だったので、プッシュ(計測)→クールダウンラップ2周→プッシュ(計測)で走って一度ピットに戻り、最後のランに一発勝負をするという形になりました。本来はタイヤを3セット使って3回計測するほうがいいのですが、過去の経験からいうとニキータは3回走っても毎回タイムを上げられるタイプではありません。クールダウンラップを2周挟んで、その間に最初のラップに関して考えるべきことを頭のなかで消化してもらうためにも、2セットで走る方法を選択しました。彼はトラックリミットにも苦労しており、なかなかタイムが出せず、最終ラップでなんとかタイムを計測することができました。

決勝レースでは、スタート直後にニキータのヘッドレストが緩んでしまいました。担当メカニックがグリッド上でレース開始前にきちんと取り付けていなかったことが原因です。恥ずかしい話ですがあってはならないことですし、言い訳のしようもありません。これでニキータのレースを台無しにしてしまいました。
アメリカGPでもニキータのレースエンジニアが不在だったので、僕がエンジニアリングディレクターの業務と掛け持ちでニキータのエンジニアを務めました。レースはダメになってしまいましたが、前戦と比べると、スイッチ操作などに関するこちらからの指示にはすべて対応していましたし、無線で伝えた情報の処理も改善されていました。しかし、レースペースという点ではまだまだですね。

ミックはの方は引き続き、初日の走り出しをよくするというのが課題です。今回も金曜日にいいレファレンスを出してそれをベースにしてレースを走るのではなく、まだまだ週末通して学びながらペースが上がっていく状態でした。たとえば、路面温度が高いことに加えて路面がバンピーだったので、金曜日は自信を持てずにセクター1の高速コーナーでタイムをロスしていました。FP3ではそれが改善されてロスが小さくなり、レースでもよくなっていました。また日曜の風向きの変化にもよく対応していたと思います。
ポジティブな言い方をすれば、週末を通してそれだけ改善しているということですが、次の段階に進むためにはやはり走り出しからもう少し限界の近くで速く走ることが重要です。とはいえ彼も確実に進歩していますし、レース中もいろいろなことを試して、こちらから言うことに対して反応できるキャパシティもあります。人の話をよく聞いて、とにかくやってみるということができるので、これを続けていければ伸び代はあると思います。

