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コラム ニュース

投稿日: 2021.01.14 17:05
更新日: 2021.01.14 18:20

2016年ETRC、“巨大なクルマ”に魅了された初めての本格トラックレース観戦【サム・コリンズの忘れられない1戦】

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コラム | 2016年ETRC、“巨大なクルマ”に魅了された初めての本格トラックレース観戦【サム・コリンズの忘れられない1戦】

 トラックレースは一度だけ見たことがあったが、ブランズハッチで行われたレースはお世辞にもレベルが高いとは言えない国内イベントで、私はあまり楽しめなかった。一方で、ETRCのプロフェッショナルなパドックには驚かされた。

 トラック自体はガレージに入れないほど大きいため、パドックの巨大な日除けの下に並んでいた。多くの点では通常のレーシングパドックと同じだったが、違うのはすべてが単に巨大であるということだ。

 私が予想していたような汚れた自作のマシンではなく、そこにはしっかりと仕上げられ、高度に開発がなされたレーシングマシンがあった。そこで私は“トラックレーシング界のエイドリアン・ニューウェイ”というあだ名をつけられたステファン・ホーネンスという男性に紹介された。

 ホーネンスは私に、この奇妙な形式のモーターレースのルールについて説明してくれた。ホーネンスが働くタンクプール24チームのトラックをドライブするのは当時の王者、ハンガリー人ドライバーであるノルベルト・キスだった。彼らはエンジンパワーが強力なため、トラックがツーリングカーのように加速するが、トップスピードは時速160kmに制限されていることを説明してくれた。

トラックはガレージに入れないため、巨大な日除けの下に並んでいた
トラックはガレージに入れないため、巨大な日除けの下に並んでいた

 実際に正確なデータを見ると、トラックは時速30kmから160kmで走行することを示していた。ポルシェ911 GT3の市販車と同じペースだ。トップスピードが制限されているのは、それ以上速く走るとほとんどのコースでバリアに衝突した際、トラックを止めることができないからだという。

 私が一番混乱したのは、キスがレーシングトラックのことを“クルマ”と呼ぶことだった。「トラックをドライブするのはカートをドライブするようなものだ」と、キスは言ってのけたのだ。

 彼らに教えてもらったいくつかの数字は、まるで他の惑星のもののようだった。最低重量は5,300kgで、最大出力は1,500bhp。すべてのチームは排気量約13,000ccのディーゼルエンジンを使用しており、3,000rpmで5,500Nmのトルクを生み出していた。

 ETRCに参戦しているほとんどのトラックは、ヨーロッパで見られる典型的なレイアウトで、無骨なフロントキャブがシャシーの前部に搭載され、大体がフロントホイールよりも前にある。エンジンとトランスミッションは後部の2本の巨大なスチールのシャシーレールの間にあった。リヤホイールは6本あり、1本のアクスルに装着されて走行する。

 レイアウトのなかで例外だったのは、“キャブ-リヤ”と呼ばれるあまり一般的ではない北米式のトラックだ。エンジンがトラックの前部にあり、キャブは後方にあるトラックだが、このレイアウトを採用しているのは1チームだけだった。

 さらにこれほど巨大なクルマについて衝撃だったのは、空力開発も行われているということだった。ダウンフォースを増すためにパネルが取り付けられていたのだ。だが、ドライバーたちはすぐに互いのパネルをぶつけ合っていたので不思議に思ったことを覚えている。

 2日間で4レースが開催され、15台のトラックがグリッドに並んでいた。15台というと少ないように感じるかもしれないが、クルマの純粋なサイズを考えると、レッドブルリンクのようなコースには十分だった。

 レースではグランプリコースではなく、観客にとってより見やすい2.3kmの短いコースが使われていたからだ。サーキットに訪れていた約20,000人のファンの多くが自分のトラックで来場したようだ。彼らは旧サーキットの跡地にトラックを駐車していた。

 正直、レースは誰が優勝したか覚えていない。だが、そんなことは関係ないほどレース自体は素晴らしかった。まるでBTCC(イギリス・ツーリングカー選手権)を見ているような見事なバトルがコース上のいたるところで行われていた。私はコースのさまざまな場所からレースを見て、心のなかでトラックレースは素晴らしいと感じた。

 翌日、私は3戦目のトラックレースを見ていたのだが、これもバトルが満載で、どんどんトラックレース・チャンピオンシップにのめり込んでいった。私が気にいるだろうと言った主催者たちは正しかった。

2016年ヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ(ETRC)のサポートレースとして開催されていたフォーミュラVee
2016年ヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ(ETRC)のサポートレースとして開催されていたフォーミュラVee

 3戦目が終わったあと、私はサポートレースのパドックを訪れた。ヨーロッパの伝統的なフォーミュラVeeがサポートレースのひとつだったからだ。クルマを眺めながら歩き回ると、かつて私が所有していた1969年型オーストロ・ポルシェVeeが素晴らしく美しいコンディションを保っていた。それを見たときは、自分の古いクルマを売らなければよかったと少しだけ思った。

 突然、馴染みのある声が私の名前を呼んでいるのが聞こえた。イギリス選手権で私の古いチームメイトだったデトレフだ。彼がドイツに戻ってから私たちは連絡を取らなくなっていたのだが、彼がこのシリーズでレースをしていることが分かった。

 そのとき彼のクルマに座わらせてもらったのだが、シートと体が完璧にフィットした。一方で、シングルシーターでは数年間走行していなかった私は、どれだけ体が露出するかに驚き、危険にも思えた。それでも私はこのクルマを走らせてみたくてしょうがなくなり、再びレースを始めた(実のところ、今でもレースをやっている!)。

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