ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。

 厳しい資金難でレース以外の気苦労、そして物理的な問題に直面しているロータスF1チームと小松エンジニア。今季の最終戦、アブダビでまたしても搬入からアクシデントが続きました。そしてこのアブダビは小松エンジニアのロータス最後のレース。来季ハースに移籍する小松氏にとって、ロータス最後のレースはどのようなものだったのか。そして、ハースの移籍について、その想いを語って頂きました。

 F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第19回目の一部をお楽しみ下さい。

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小松礼雄コラム 第19回
チーフエンジニアとしての一年
そして、エンストーンとの別れ

 アブダビは日の入りからスタートするトワイライトレースですが、ここでの難しさは路面温度の変化です。今年は例年ほどではなかったのですが、レースと同じような路面温度になるのは予選とP2だけなので、P1とP3で得られるデータは実際に勝負になる予選と決勝とはかなり違います。実際にクルマのバランスを調整するのに役立つセッションが予選前に1回(P2)しかないというのが少し難しいのですが、今年に限っては路面温度の変化が例年より少なかったのでそれほど酷くはありませんでした。

 大変だったのは、今季最終戦にも関わらず、サーキットでの準備が大変でした。ご存じの方も多いと思いますが、サーキット使用料未払いの件で最初のスタッフがサーキットに入れたのが結局、木曜日の朝になってしまいました。今までで一番、搬入時間が短いグランプリになりました。通常なら最初に入るトラッキーなどのスタッフ、セットアップクルーは月曜日の朝からに入ります。今季、何度かサーキット使用料未払いで足止めになったときにも、水曜日にはサーキットに入れていたから、木曜日の朝まで誰も入れなかったのは今までないですね。今年の最終戦で、また新たなチャレンジになりました(苦笑)。

作業をやり始めたのが午後3時で、カーフュー(労働制限時間)は午前2時なので11時間しか時間がないわけですよ。僕はその時間内にクルマを組み立ててエンジンをかけるのはほとんど無理だなと思っていました。でも実際は、ほぼ何も付いていない車体をコンテナーから午後3時に下ろし始めて、ゼロからクルマを作って、11時間以内にエンジンをかけちゃいましたから、メカニックの人たちはすごく良くやってくれました。例えカーフューに間に合わなくても、僕はカーフューを破る気はなくて金曜日に改めて作業をする方向で考えていたのですが、制限時間に間に合うことができました。

  ですが残念なことに、夜中の1時半にエンジンを掛けたときにロマン(グロージャン)のクルマの方は水漏れがあって、ウォーターポンプを変えないといけなくなりました。それを変えるのは3時間くらい作業時間がかかるので、とりあえず午前2時までやれるところまでカーフュー内でやって、続きは次の日の朝に。パストール(マルドナド)のクルマは幸い、なにも問題はなかったのでP1に遅れることなく走ることができました。

 ロマン車はウォーターポンプ交換の為。P1の走り出しが30分くらいは遅れると思っていたのですが、交換後にエンジンをかけるたら今度はまた別の箇所から水漏れがありました。それを直さないといけなかったので、P1はほぼ全く走れないだろうと思っていたのですが、ロマン車のクルーがもう一度すごい速さで作業して、結局、残り15分くらいでジョリオン(パーマー)を乗せて、コースに出すことができました。

 結局、計測ラップを9周できたのですが、これも妥協の産物です。最初は全くコースに出れないと思っていたし、出れてもインスタレーション(チェック走行)くらいだと思っていました。その中で残り10分か15分でクルマ自体は組み上がるという目処が立ったのですが、実際にコースに出すためには、ガレージ内でのクルマのセットアップチェックなどをしている時間がない。空力のバランスなどは採ってありますが、キャンバーなどは全部インテルラゴスのままのセッティングでした。本当に、とりあえず走らせただけという状態です。

 それでも、その状態までクルマをもって来たメカニックたちはすごいと思います。それに、フリー走行ではパストールがP1で9番手に入って、アブダビ用のセットアップは走り出しから悪くはありませんでした。P2はジョリオンに替わってロマンが乗りましたが、残念ながらクルマが安定せず、15番手とタイムが伸びませんでした。

 予選Q1はパストールがQ1を15位でギリギリ通過しましたが、あれはラッキーですよね。(セバスチャン)ベッテルがQ1落ちしたお陰でクリアできた。僕はフェラーリのことは直接戦う相手ではないので細かく見ていませんでしたが、最初スローダウンした時、なにか電気系が壊れたかなと思いました。あとでタイムズラップ中に止めたというのを知って「なぜ?」とは思いました。その前の1分42.9秒ではどう考えても大丈夫だとは思えない。だから安全だと判断して計測ラップを止めたのはビックリしましたね。

 Q2は2台ともノックダウンという結果でパストールはセクター1をまとめきれず、ロマンにはギヤボックストラブルが起きてしまいました。コースインしてトラブルが起きてピットインしてもう1度コースインしましたが、結局ダメでコースにマシンを停めることになりました。Q1のタイムから考えたら、ロマンはQ2でもおそらくギリギリでトップ10に入れていたから、すごく残念でしたね。

 それに結果論ですが、僕は最初のトラブル発生の後、ロマンをピットからコースに出すべきではなかったと思います。もう最初の段階でギヤボックスが壊れていましたし、あのタイミングでコースインしてもどうしようもない。いずれにしてもギヤボックスは交換しなければいけない。応急処置を施してコースに出ていきましたけど、ダメなのはわかっていた。僕が一番怖かったのが、ロマンをコースに出して途中で止まってしまうことで、アタックに入っているパストールに対してイエローフラッグを出してしまうことです。ギリギリだったとは思いますが、両方ともQ3に行ける可能性はあったので本当に残念でした。



続きはF1速報有料サイトでご覧ください

「グロージャンの最終スティントに湧いたロータス」
「F1のチーフエンジニアとしてイレギュラーな1年」
「8年間共に戦ったエンストーンとの別れ」
「ハース移籍の理由と手応え」

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