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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2023.10.25 07:50
更新日: 2023.10.25 16:24

骨折を隠し、“手造りサインボード”でル・マン初制覇。輝く新興プライベーター、インターユーロポルの熱情

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ル・マン/WEC | 骨折を隠し、“手造りサインボード”でル・マン初制覇。輝く新興プライベーター、インターユーロポルの熱情

 チェッカーまで1時間15分というところで最後のバトンを受け取ったのもシェーラーだった。乗り込む時には、「優勝とか考えるな。ただ、普通にドライブすればいいんだ」と自分に言い聞かせたという。

 だが、この最終スティントでも、チームにはハラハラドキドキの出来事が待っていた。24時間使い続けていたことで、無線のジャックに緩みが出て外れ、シェーラーとの交信ができなかったのだ。

 一度は給油のためにピットインが必要だが、シェーラーはそのタイミングが分かっているのか? 焦るチームは、急遽手作業でシェーラーへのサインボードを作って、必死で提示する。チームメイトは「頼むからピットインしてくれ」とばかりに両手を合わせた。しかし、コクピットのシェーラーは、この時、笑顔を見せていたのだと言う。

「コクピット内にはモニターがあって、燃料の消費量なども分かる。だから、僕は自分があと何周しなければならないかってチェックしていたし、ちゃんとピットに入るタイミングも分かっていたんだよ。だから、あのサインボードを見た時は、ちょっと微笑んでしまった。僕と無線交信ができていないチームの思いが伝わってきたし、心温まるサインだったから。一方、僕がその時一番気になっていたのは、2番手とのタイム差だった。それが分からないから、ストレートに入るたび大型のモニターを見て、タイム差を確認していたんだ」

 チームもその状況は分かっていたため、シェーラーがピットに入るとクバが2番手とのタイム差を書いた紙を手渡す。無線のジャックもここで繋ぎ直し、ピットとシェーラーの交信も復活した。

 そして、いよいよ歓喜のチェッカーフラッグ。シェーラーは感動のあまり、ウイニングランの間中、ほぼ丸々1周号泣していたという。

 ちなみに件のサインボードは、いまでもインターユーロポル・コンペティションのワークショップに保存されている。ドライバーやスタップ全員のサインが書き込まれた状態で。

いまもファクトリーに保管されている、無線不通時の“急造サインボード”。ピットインを伝える『BOX』の文字が、テープで作られている。
いまもファクトリーに保管されている、無線不通時の“急造サインボード”。ピットインを伝える『BOX』の文字が、テープで作られている。

 なお、最後になってしまったが『インターユーロポル』というのは、クバの実家が経営している会社の名前で、手広くベーカリー事業を行なっている。

 創業したのは祖父。会社設立後はさまざまな事業を行なっていたそうだが、1989年にはヨーロッパ内外の企業に製品を販売するベーカリーを始め、それをクバの父が引き継いだのだと言う。ワルシャワを始め、ポーランド国内には、同社が運営する小売店も20軒ほど。このインターユーロポル創業当時のコーポレートカラーが黄色と黄緑ということで、いまもマシンカラーリングは、その2色なのだそう。来年以降、WECでは見ることができないが、彼らの今後の活躍が非常に楽しみだ。

ピットで歓喜の瞬間を迎えたアルベルト・コスタとインターユーロポル・コンペティションのクルーたち
ピットで歓喜の瞬間を迎えたアルベルト・コスタとインターユーロポル・コンペティションのクルーたち
2023年WEC第4戦/第91回ル・マン24時間レース 痛みに耐えながら最終スティントを走り切ったファビオ・シェーラー
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