Shinji Nakano まとめ:autosport web

 さて、今回の中国GPでのもうひとりの主役はやはり、中国人ドライバーの周冠宇(キック・ザウバー)です。初の母国GPではポイント獲得には至りませんでしたが、スプリント予選から一貫していい走りを見せており、プレッシャーと特に感じる母国GPでも、集中力を切らさず、前戦の日本GPでの(角田)裕毅と同じように、大勢の母国のファンの声援を力に変えて、戦いに挑んでいた印象です。

 そして、5年前よりも熱量のある、そして大勢のF1ファンの方が上海インターナショナル・サーキットを訪れていたように感じました。映像で見る限り、フェラーリやレッドブル、マクラーレンなどのファングッズを身につけた方も少なくはなく、やはり一番人気は周冠宇だったと思いますが、日本でいう“推しチーム”や“推しドライバー”のように、まんべんなく全チーム、全ドライバーに声援が送られていたと思います。その様子は嬉しかったですね。

 以前の中国GPは、F1という中国にはないイベントを見にきただけの方が多かった感じと言いますか、ドライバーを応援しようにも、あまりドライバーのことはわからない、詳しくないという人が少なくはなかった印象です。それが、今回はサーキットを訪れる前にF1の知識を知った上で、個々のドライバーやチームを応援していたように見えました。それはドライバー応援グッズを自作して観戦に来ていたたくさんの方たちの様子からも感じ取れましたね。

2024年F1第5戦中国GP 周冠宇(キック・ザウバー)を応援するファンたち
2024年F1第5戦中国GP 周冠宇(キック・ザウバー)を応援するファンたち

 中国にF1文化が広がり始めているのは、やはり周冠宇という存在が大きいです。ただ、中国におけるF1ドライバーのパイオニアである周冠宇は、「これからの5年や10年の間に、このグリッドにより多くの中国人ドライバーを登場させるようにするのは非常に難しいと思う」と語っていたようです。

 続けて、「たとえば、完璧な例がある。ホンダだ。彼らには『ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)』があり、若いドライバーが幼い頃から育成されている。日本のモータースポーツ文化は非常に深いものだ」と、話している記事がオートスポーツwebに掲載されていました。

 ホンダの若手育成に携わるひとりとして、そのように言ってもらえたことは非常にありがたいです。世界に通用するドライバーを育成するためにホンダが続けている若手育成ですが、育成の取り組みを続けることは簡単なことではありません。

 やはりドライバーにも越えるべき壁があるように、育成に携わる側にも、ホンダ側にも越えるべき壁はあります。それでも若いドライバーにチャンスを与え続けるのは、世界に通用するドライバー、そして“人”を育てたいという熱い思いに沿うものだと思います。それを続けてきた結果が今であり、佐藤琢磨をはじめ、裕毅や岩佐歩夢というドライバーたちだと思います。

2024年F1第4戦日本GP 岩佐歩夢(RB)、HRC渡辺康治社長、角田裕毅(RB)

 そういった取り組みを、周冠宇のように海外にいるドライバーに知ってもらえていることは、ホンダ、HRC(ホンダ・レーシング)にとっても非常に嬉しいです、改めてもっと頑張ろうという思いを抱きました。

 中国でF1がさらに盛り上がれば、中国国内だけではなく、日本を含むアジア、そして世界へと新しい流れや好影響が出ることも期待されます。日本も日本国内だけではなく、アジア全体で頑張っていくタイミングだと考えています。

 実際にHRS(ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿)のカートクラスにはアジアのドライバーも入ってくれています。日本のドライバーとともに学んでもらうことで、これまでにはなかったチャンスや好影響に通じることができれば、本当に喜ばしいことです。

 さて、次戦のマイアミGPもスプリント・フォーマットとなります。舞台となるマイアミ・インターナショナル・オートドロームは、中高速区間も超低速もあるストリートですので、機敏に動くクルマが速いサーキットでしょう。それゆえに、中国GPで失速したフェラーリがここで速さを取り戻すチャンスはあると思います。

 また、中国GPでは不運やアクシデントに見舞われたRBのマシンも、決して相性は悪くはないコースだと思いますから、裕毅の再び入賞にも期待したいですね。ただ、やはりマイアミでもレッドブルが強いことには間違いないでしょう。

2023年F1第5戦マイアミGP マイアミ・インターナショナル・オートドローム
2023年F1第5戦マイアミGP マイアミ・インターナショナル・オートドローム

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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