アロンソが上位の3強チーム5台とサインツからジワジワと離されながらも7位を走行していると、後方で苦戦を強いられていたバンドーンが無線で訴えてきた。
「パワーを失った。またパワーサイクルをやる?」
「OK、燃料のトラブルだ。バックオフ、バックオフ。ピットインしてくれ」
開幕戦では制御系のセンサーエラーのためERSの発電が止まり、マシンを再起動して回復させたバンドーンだったが、今回は燃料タンクの不具合による燃圧低下でどうすることもできずリタイアを余儀なくされた。
20周目、ソフトタイヤを履くアロンソを抜けない8位ペレスが、状況打破を狙って早めのピットインに向かった。しかしアロンソのタイヤはまだまだ問題なく、計算上は走ろうと思えば最後まで走り切ることもできるはずだった。
「ペレスがピットインした。タイヤはどうだ?」チームからアロンソに無線が飛ぶ。
「タイヤはOKだよ」
レースエンジニアのマーク・テンプルは、アロンソに周囲のドライバーの状況を随時伝えていく。
「10秒後方のマグヌッセンは我々と同じ周回のオプションタイヤ(=スーパーソフトタイヤ)、我々と同じペースだ。さらに8.5秒後方のペレスもオプションだ」
「後ろは僕らより柔らかいタイヤを履いているんだから、彼らが入ったら僕らも入れば良い。急ぐ必要はないよ」
「マグヌッセンがピットインした。ペレスやオコンと較べてもペースは良いぞ」
33周目、一度ピットインして後方に下がったサインツが、ふたたび追い付いてきてバックストレートで仕掛けてくる。アロンソはマシンを左右に振ってなんとかトウを外そうと抵抗を試みるが、ターン14で止まりきれず先行を許してしまった。
「すまない、ブレーキングでクルマがどこに行くか分からなかった」
「了解、気にするな」
そうやりとりをしていた瞬間、左リアのドライブシャフトに異変が生じた。
「あ、ドライブシャフトだ、ドライブシャフトトラブルだ」
「OK、安全な場所に止めてスイッチオフしてくれ」
土曜の夜にも同じ左リアのドライブシャフトを交換しており、問題を抱えていることは分かっていた。だからアロンソも瞬時に直感しドライブシャフトだと無線で報告した。
サインツに先行を許したとはいえ、7位で手堅くフィニッシュできるはずだったレースを落としてしまった。
「開幕戦での言葉を繰り返したくないけど、今回も僕のキャリアでベストなレースのひとつだった」とアロンソ。
今のマクラーレン・ホンダにとって千載一遇のチャンスを逃すことになってしまった。その痛手はあまりに大きすぎた。
