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F1 ニュース

投稿日: 2020.04.14 20:38
更新日: 2020.04.27 10:50

『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR』連動企画01/グランプリとカート少年の憂鬱

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F1 | 『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR』連動企画01/グランプリとカート少年の憂鬱

 かくして、私は長く退屈な寄宿学校の「フリータイム」を、ずっと有益に過ごせるようになった。カートのエンジンを分解してリビルドし、ギア抜けを直すために新品の2速ギアを使ってギアボックスを組み直し、あるいはブレーキの整備をしていたのだ。

 翌年の夏休みには、またシェニントンへ行ってさらに2回の練習走行をしたが、このカートと私は依然として遅すぎた。ただリビルドして調整するだけでは大して速くはならず、もっとドラスティックな対策が必要だった。エンジンは明らかにパワー不足で、チューブフレームのシャシーも、速い少年たちのカートと比べると一世代前のものだったからだ。

 エンジンに関しては、オリジナルの鋳鉄製に代わるアルミニウム製のアプトン・シリンダーと210㏄のピストンを手に入れる必要があったので、私はまた洗車のアルバイトをして資金を作り、父も引き続き私が稼いだ額と同額の援助をしてくれた。新しいシャシーを作るのは、それよりずっと大がかりな話になり、まずは溶接と鑞ろう付けの技術を習得しなければならなかった。

 そこで私は、BOCがバーミンガム北部のプルーム・ストリート── まさに溶接を教える場所にふさわしい地名だ) ── で開いていた、10日間の溶接講習コースに受講の申し込みをした。私は毎朝6時に起きてストラトフォードからバスに乗り、9時前にはバーミンガムに着いて、仕事にうんざりしている大勢の30代の男たちと一日を過ごした。彼らの多くは雇い主の命令で、この講習を受けさせられていたのだ。そして家に帰ると、もう夜の9時近かった。

 こうして新しいスキルを身につけた私は、学校に戻ってシャシーを作り上げた。クリスマス休暇の間には、アプトンのシリンダーを使ってエンジンをリビルドし、さらに友人の手助けを借りながら、電子工作の雑誌から設計をコピーした電子式イグニッションも作った。

 夏学期を迎える頃には、すべての作業を終え、うまく走ってくれることを祈りながら、カートをワークショップから持ち出した。最初の試みは失敗に終わり、私はカートを押して屋内に戻した。しばらくあちこちをいじくり回して、イグニッションタイミングが間違っていたことがわかった。

 別の日の午後に、もう一度始動を試みた。今度は二人の友人が熱心にカートを押してくれて、クラッチを繋ぐと、エキゾーストから大量の青白い煙が吐き出されてエンジンがかかった。

 当時やはりレプトンの生徒だったジェレミー・クラークソン(※BBCの自動車番組『トップ・ギア』の司会者を務めていたことで知られる)は、その時のことをよく憶えていて、のちに彼なりに脚色した話をジャーナリストたちに語った。彼の話では、私はゼロから自分のカートを作り(実際には、そうではなかった)、学校の中庭を恐ろしいほどのスピードで走り回った(それもやっていない)ことになっている。

 本当のところは、チャペルの周りをゆっくりと転がした程度にすぎない。ただ、その試走は悲惨な結果に終わった。カートを押してくれた友人のひとりに運転させたところ、クラッシュしてリア・アクスルを曲げてしまったのだ。新品を買うために貯金しなければならないと思うと、まったく気の滅入るような出来事だったが、費用の一部は友人が負担してくれた。

 しかし、それ以上にまずかったのは、いったいこれは何の騒動かと校長が様子を見に来てしまったことだ。まあ、それも驚くには当たらない。私のカートはレース用の2ストロークで、サイレンサーも付いていなかった。その騒音は、唸りを上げる蜜蜂のロボットの大群が急襲をかけてきたかのように聞こえたはずだ。明らかに機嫌を損ねた様子の校長は以後、学校にカートを持ち込むことを禁止した。もっとも彼の命令は実質的には無意味だった。結局もう次の学期には、私はこの学校にいなかったからだ。

 ジェレミーがよくジャーナリストに話している逸話が、もうひとつある。1970年代を通じてレプトンを放校になった生徒はふたりだけで、ひとりは自分、もうひとりが私というものだ。

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『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR』
訳/水書健司 監修/世良耕太
発行元/株式会社 三栄
ハードカバー・656ページ
4800円+税
2020年4月28日(火)発売

通販にて予約受付中
https://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=11299


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