ファクトリーに入れる人数を制限しているとはいえ、作業に遅れが出ているわけではありません。むしろ、以前よりも効率が上がったことがいくつもありました。
たとえばR&Dという実験などを行う部署があるのですが、仕事の流れとしてはエンジニアが組んだテストを技師が実行して、その結果をエンジニアが解析するという感じです。しかし、以前はいくらテストの実行を技師に任せようとしても、どうしてもテスト中にエンジニアが関わるケースが多々ありました。
ですが今はR&D部のエンジニアは在宅勤務なので、テストの前に今まで以上にしっかりと計画を立てて細かいところまで煮詰めて指示を出しておかないといけません。そうしたところ、技師のみで行う実験当日の作業の効率と精度が目に見えて上がったのです。
またこれまでだったら、普段デスクで仕事をしているエンジニアたちは、必要があればショップフロアにいるスタッフにすぐに相談しに行くことができました。それが在宅勤務メインの今では、まずは自宅でできることを進めておいて、出社日にまとめて疑問を解決するというやり方に変わり、全員が強制的に仕事の計画を見直さざるを得なくなったので、結果的に時間をもっと有効に使えるようになりました。
どうしても今すぐに相談しなければいけない案件などはビデオ会議などを行います。要は、状況次第で今やるべきことは何なのかということをみんなもっと考えてから行動するようになってきたと思います。

もちろん、在宅勤務の難点もあります。たとえば、実際に部品を見ながらの作業ができないことです。でも、それもよく考えるとその人の役職次第ですし、エンジニアの場合そういう状況はある程度限られています。
個人的には、この先規制がなくなっても、今までのように毎日ファクトリーで働くという形態には戻さず、在宅勤務の様々な利点も生かしてバランスのとれた勤務体制にしたいと思っています。
それから、イギリスに拠点を置くF1チームが新型コロナウイルスの医療支援の一環で『プロジェクト・ピットレーン』というプロジェクト進めていました。人工呼吸器などの数が足りないのは明らかだったので、ウチのチームのスタッフはこのプロジェクトが始まる前から数人で動き出していました。
F1チームは短時間で何かを作ることや、急な仕様変更への対応、少量生産などに慣れていますし、それに沿った購買のルートもありますから、この様な緊急事態には比較的対応しやすいんです。
プロジェクトが始まってからは、購買の部署の人は部品の手配、電気関係のスタッフは基盤のデザインや組み立て、プログラマーや制御系の人たちはソフトウェアの設計などに関わりました。