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F1 ニュース

投稿日: 2020.08.22 12:40
更新日: 2020.08.22 13:17

【中野信治のF1分析第6戦】レッドブル・ホンダの現在地。フェルスタッペンにベッテル、無線で見える個性と心境

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F1 | 【中野信治のF1分析第6戦】レッドブル・ホンダの現在地。フェルスタッペンにベッテル、無線で見える個性と心境

 ベッテルが「どれくらいのペースで走ればいい?」と聞いているのに、しばらく立ってから「このタイヤで最後まで行けるか?」とエンジニアが突然の戦略変更を伝えてきて、ベッテルが「ハハ! さっきこっちから聞いたよね?」と話していましたが、ドライバー心理的には同情してしまいますね(苦笑)。『だったらスティントの始めからそうやってペースを組み立てたのに』『早く言ってくれよ』と言いたくなります。

 今回のレースはピットタイミングが結構分かれて、いくつかの戦略が考えられる展開だったのでドライバー側としてはペース配分をどれくらいにすればいいのかわかりずらかったと思います。だからこそ、チームとのコミュニケーションは重要で、どういう作戦がほしいかなどなど、お互い考えてることを知っておきたい。

 それでも無線ではちぐはぐな感じでしたけど、今回のベッテルは最後まですごくいい粘りの走りを見せてくれて、最後の方では「僕たちは失うものがないからやってみよう」と、逆にベッテルは吹っ切れた感じがありましたね。あの『ハハ!』のひと言で、ベッテルにとって今回がいいきっかけになればいいなと思います。

 悪くなったら悪くなったでしょうがない。ベッテルにとってはある意味ノープレッシャーですよね。それがよかったのか、最近のプレッシャーを感じ続けていたベッテルには見られないような力強い走りを見せていました。ベッテルはプレッシャーが大きくなると乱れるタイプのドライバーでもあるので、今回はスランプというか、苦しんでるところから抜け出すためのヒントがあったのかなという風に見えました。

 あと、今回の無線ではボッタスが「クルマが黒いので暑いよ」とか話していましたよね(苦笑)。最近、そういうユーモア、普通は言わないよねということを結構ドライバーが自由に言い始めてますよね。前回のレースでもフェルスタッペンがチームに無線で「水分を取って、きちんと手を消毒しておいてね」と話していたり、ちょっとそういうユーモアがトレンドになってきてますね(笑)。

 でも、その無線の背景には、自分自身のマインドコントロールのためにチームを気遣うような軽口を叩くみたいな、ふと気が抜けた言葉を話すことで自分自身をリラックスさせるという効果を生み出しているのだと思いますね。

 人間、やはり集中してしまうといろんなことが目に入らなくなるので、集中していくと呼吸の回数がどんどん減ってきますよね。呼吸の回数が減ると脳に酸素が回らなくなって判断力が鈍ってくる。それをリラックスさせることで、見えてない部分に目がいくようになるとか、そういったテクニックというものが僕はあると思います。普通の会社員のミーティングでもひと言、馬鹿なことをわざと言って周りを盛り上げることで、自分自身が盛り上がってと、ドライバーに限らずそういう人はいますよね。

 今回注目されたドライバーとエンジニアの無線のやりとりですが、ヨーロッパでの無線の仕方は、基本は日本のレースでも同じです。F1では空力担当や戦略担当、タイヤ担当などそれぞれ何人かエンジニアがいるなかで、チーフエンジニアがすべてをまとめて無線を担当しています。

 日本でもトラックエンジニアの他にデータエンジニアとかサポートエンジニアがいる形なので、システムは非常に似てますね。ただ、ヨーロッパのエンジニアの方が無線で話す量は圧倒的に多いです。日本でもエンジニアにもよりますが、基本はあまり話さないですね。ですので、日本のドライバーは走っている時にそこまで話されることに慣れていないと思います。

 F1でも僕の頃はそこまで多くはなかったですが、最近、特に無線でのやりとりは多くなったと感じています。去年も無線を聞いてエンジニアが話しっぱなしでびっくりしたのを覚えています。「前にクルマが何秒先にいて、今はどれだけ我慢して」とか全部細かく伝えていましたね。

 それが今は当たり前になってるので、昔ならドライバーが「うるさい!」ってなったかもしれないですけど(苦笑)、今はドライバーもいい意味で聞き流しながら、情報として聞き入れて理解して、聞いた情報を自分のなかで組み立ててペースや走り方を工夫している。チームもそういうつもりで情報を伝えていると思います。

 ですので、今のドライバーはそういった頭での理解がなければ勝てません。ハミルトンの成長を見ればわかりますけど、本当に変わりましたからね。頭が良くなったという言い方は変ですが、“頭の使い方”が以前とは別人ですよね。彼はおそらくトレーナーから“コーチングしてもらって、自分自身で頭の使い方を変化させていって今はほぼ完成させつつありますよね。メンタル面がいかに重要なのかというのを証明していると思います。

 日本ではそういったメンタル面をまだそこまで重要視していないというか、「自分でやればいい」みたいな個人の役割になっていますよね。でも極限のところで戦っているスポーツですし、特に世界に出ていくためには、僕はサポート体制は絶対に必要になると思います。そのメンタル面での強化を上手くやれたら、それまで強かったドライバーがさらに強くなれる。ハミルトンはそのいい例ですね。

 さて、次はベルギーGPですが、レッドブル・ホンダにとっては、ちょっと厳しい戦いになるかもしれませんね。メルセデスもレーシングポイントも速いでしょうし、そのメルセデスPU勢を相手にレッドブルがどのような関係になるのか。ダウンフォースが少なくなるサーキットなので、ローダウンフォースのクルマでどういう動きをメルセデス、レッドブルが見せるのかが興味深いです。

 今季まだローダウンフォースのサーキットでは走っていませんから、新しいタイプのサーキットという意味では変化があるかもしれないので結構、面白くなるのかなと思います。普通に考えればメルセデスがPU面で若干リードしている感じなので、そこで若干ダウンフォースを付けることができる強さもありますが、特性が違うサーキットでは走り出してみるまで意外に分からない可能性もあると思います。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年スーパーGT Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督


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