F1チーム首脳陣のコメント、あるいは質問により引き出された答えからは、今のチームやF1全体の状況や課題が読み取れることが多い。F1ジャーナリストのクリス・メッドランド氏が、ひとりのチーム首脳にフォーカスし、その人物の言葉をまとめ、そこから見えてきたトピックを取り上げる。今回はフェラーリのチーム代表マッティア・ビノットに焦点を当てた。
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フェラーリのチーム代表マッティア・ビノットは、上り調子のなかで2021年シーズンを終えることができて、胸をなでおろしていることだろう。2020年のフェラーリは本当にひどかった。コンストラクターズチャンピオンシップ6位と、過去40年間で最悪の成績だったのだ。
ビノットは2021年を前に、すべてのリソースを2022年のマシンに注ぐことに決め、抜本的な改革を行うなかで、セバスチャン・ベッテルの代わりにカルロス・サインツを起用した。
状況を考えれば、2021年もフェラーリにとって厳しい年になるものと予想されたが、この年、彼らは意外にも強さを発揮し、シーズン終盤にはマクラーレンを抑えてコンストラクターズ選手権3位に浮上した。
シャルル・ルクレールのチームメイトとしてサインツを起用したのは、非常に良い選択だった。だが、ふたりの力が拮抗しているため、それはそれでビノットは悩みを抱えることとなった。ふたりはよく協力し合って仕事に取り組んでいるものの、コース上で近くを走ることが多い。第21戦サウジアラビアGPはまさにそういう状況だった。
サウジアラビアを前に、フェラーリは39.5点のアドバンテージを築き、ランキング3位獲得が確実になりつつあった。そのため、ビノットはドライバーふたりをコース上で自由に競わせることにした。ふたりは激しく戦ったが、概ねクリーンなバトルを繰り広げ、大量のポイントをチームに持ち帰った。
7位と8位というリザルトは決して満足といえる結果ではなかったが、フェラーリは最終戦アブダビを前に、さらに余裕のある状況になった。
■『ジャン・トッド復帰』というロマンティックな噂にうまく対応したビノットのクレバーさ
フェラーリのチーム代表としては非常に珍しいことだが、アブダビでのビノットはプレッシャーから解放されている様子だった。レッドブルとメルセデスの戦いを見るのは楽しい、F1への関心がさらに高まるだろう、などと、他チームのことを、ビノットはリラックスして語っていた。
だがマラネロ関係の話題が何もなかったわけではない。最終戦の前に、ジャン・トッドがFIA会長の任期を終えた後、フェラーリに復帰するのではないかという報道が流れていたため、ビノットはそれに関して質問攻めにあった。
「それについての憶測を耳にしたし、読んだ」とビノットはコメントした。彼は非常に知的な人物で、何が起こっても対処できるように、常に準備を整えている。報道にもしっかり目を通しているのだ。
「私に言えるのは、今のところそれは憶測にすぎないということだけだ。ジャン・トッドはかつてのボスなので、一緒に仕事をしたことがある。彼から多くのことを学んだし、彼と一緒に働くことができて光栄だった。将来どうなるにしても、今後彼と一緒に働くことになるとしたら、やはり光栄に思う。彼から学ぶことはまだたくさんあると思うからね」
その後に結局、「トッドとは話し合いをしていない」ともコメントしたビノットだったが、それまでの彼の回答は、非常に賢いものだった。トッドがフェラーリに復帰するかもしれないという話題は、たとえ単なるうわさに過ぎなかったとしても、フェラーリファンにとっては、ロマンティックな話だ。こういった話題がフェラーリに関してポジティブな関心をかきたてるということを、ビノットはよく知っているのだ。
■大きな進歩を見せた2021年をベースに本格復活を目指す
フェラーリがリラックスして臨んだ最終戦で、サインツは3位表彰台を獲得して、ドライバーズランキング5位の座をつかんだ。フェラーリは2021年、復調し、ポジティブな形でシーズンを締めくくった。
「3位を獲得できたのは素晴らしいことだ」とビノットは語った。
「ベルギーとモンツァの後は、あるいはロシアの後でさえも、3位を想像することさえ難しい状況だった。だが、チームは懸命に働き続け、集中し続けて、すべてのレースで非常に安定したパフォーマンスを発揮し、可能な限りポイントを獲得し、チャンスを最大限に生かしてきたと思う」
「今年(2021年)の目標は、細部にわたってあらゆるエリアで自分たちを向上させることであり、最後の数戦はそれを実行することで、必要なポイントを獲得することができた。3位でシーズンを終えることができて、本当にうれしい。今年我々に可能な最大の結果だった。フェラーリにとってそれが真の目標ではないことは分かっている。ベストのチームとの差はまだ非常に大きい。それでも、今シーズンに果たした進歩には満足していいだろう」
「今から来シーズン(2022年)が楽しみだ。3位でフィニッシュできたので、冬の間は落ち着いて、来年型マシンの作業に取り組んでいく」
2021年は比較的プレッシャーが少なかったが、2022年はそうはいかないということを、ビノットは承知しているはずだ。2020年がひどすぎて、それ以上悪くなりようがなかったため、2021年には大きな期待がかけられていなかった。だが、規則が一新される2022年には、フェラーリがどれだけしっかりマシンを仕上げてくるか、注目が集まる。ビノットは間違いを冒すことなく、チームの競争力を高める必要がある。それができなければ、2021年シーズンは何の意味もなくなってしまうのだ。