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ル・マン/WECニュース

投稿日: 2010.05.14 00:00
更新日: 2018.02.15 20:00

【野田英樹】ル・マン シリーズ第2戦ベルギー 好調の流れで善戦するも予期せぬトラブルでリタイアに


ル・マン シリーズ2010第2戦 ベルギー
野田組、好調の流れで善戦するも予期せぬトラブルでリタイアに

ヨーロッパ各地を転戦する世界最高峰の耐久レース「ル・マン シリーズ」。4月11日にフランスで行われた開幕戦に続き、5月7日(金)から9日(日)にベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットで第2戦が開催された。
今回は6月に行われるルマン24時間耐久レースの前哨戦ということもあり、ワークスチームのプジョーやアウディーがそれぞれ本戦と同様の3台体制で参加。また開幕戦では1台のみだったLMGT1クラスにも7台がエントリーするなど、フランスよりも多い総勢50台で争われることとなった。
野田英樹の所属するKruse Schiller Motorsport(チーム名:クルーズ シラーモータースポーツ、ドイツ 以下KSM)は、開幕戦で多発したトラブルの解決と戦闘力向上を図るため、この1カ月間でマシンのパーツ交換などによるアップデートを実施。開幕戦の決勝レース後半、トラブルがほぼ解消してからは同じクラスのライバル達と同等のペースで走行することが出来ていた。マシンに問題さえなければ十分に上位進出を狙えるポテンシャルを持っている事を確認しており、このアップデートで更にライバルとの差を縮められる事が期待される。
またKSMにとってスパは、昨年マシンにトラブルを抱えながらもチームとドライバーの粘りの戦いで見事入賞を掴みとった思い出の地でもある。次に控える世界3大レースのルマン24時間レース本戦に向けて弾みをつけるためにも、このレースが重要な一戦となる。

7日(金)、あいにくの雨模様で気温は冷え込んでいる。スパのサーキットは山の中にあり、またコースが長いことから、レース中に目まぐるしく天候の変化やコースの一部だけが濡れているといった「スパウェザー」と呼ばれる現象がおこる。昨年のレースウィーク中にも雨の時間帯があり、この雨をいかに攻略するかもスパの重要なカギとなる。
公式練習1回目はマシンのチェック走行と雨の走行データ収集などを行う予定。3人のドライバーが順にステアリングを握りマシンの状態を確かめる。今回はトラブルもなく、順調に予定のプログラムを消化。2種類あるレインタイヤの比較テストなども行い。貴重な雨での走行データを十分に収穫することが出来た。さらに続く2回目の走行時間になると、路面は乾いてドライコンディションに。1回目同様トラブルもなく、スムーズにマシンチェックや明日の予選、決勝レースに向けてマシンセッティングの方向性を探っていく。
2回の練習走行を終え、初日は目立ったトラブルもなく良い流れで終えることが出来た。また多くのデータを収集し、明日の予選に向けても満足のいくマシンセッティングの方向性が見いだせ、前戦ではハードワークが続いていたチームスタッフ達にも安堵の表情が見えていた。

8(土)、空には雲が広がっており、雨こそ降っていないがかなり肌寒い。公式練習3回目は予選に向けた最後の走行時間。昨日からのセッティングを引き続き順調に行っていく。今日もトラブルが起きることはなく、マシンは100%とは言い切れないものの、十分納得できる所まで仕上げる事が出来た。
午後より行われた公式予選、チームは今回のアタッカーをルーキーであるケナードに託した。ここまで非常にいい流れできているだけに、チームスタッフ全員が満足のいく結果を期待してケナードの走りを見守った。ケナードは早速アタックを開始、アタックラップ1周目に2分9秒795をマークし、さらにタイムの更新を目指す。しかしその直後にスピン、マシンに大きなダメージはなかったものの、タイヤを痛めてしまった。ケナードはその後もアタックを続けるが、結局タイムを更新することが出来なかった。
結果はクラス8番手となったが、P2クラスの中段グループのライバル達はほぼ拮抗したタイムでの争いとなっていたことから、タイムアップが叶わなかったことが悔やまれる。しかし、決勝は1000kmを走り切る長い戦いであることから予選のポジションはあまり重要ではなく、チームスタッフはすでに明日の決勝での戦いに集中している。

9日(日)、小雨が落ち路面は湿っている、気温も上がらない。9時からのウォームアップ走行で決勝前の最後のマシンチェックを行う。トラブルもなくマシンの状態は良好。十分に煮詰めたマシンセッティングも決まっており、クラス4番手のタイムを記録。決勝に向けて大いに期待が持てる結果となった。
ウォームアップ終了後にチームはミーティングを実施、ここまでの週末を順調にきていることから、長いレースを無理なく、確実に走りきることが出来れば十分満足のいく結果を得られる事を再確認し、またスパのレース序盤は非常に荒れるので、全員がミスなく気をつけていこうとも団結した。
スパ・フランコルシャンサーキットは1周7.003km。1000kmで行われる今回の第2戦は、このサーキットを143周で争われる。すべてのマシンがグリッドに整列し、長く過酷なレースのスタートを待つ。一時見えていた晴れ間も雲が覆い始め、50台のマシンがフォーメーションラップに入ろうとしたときには再び小雨が降り始めてきた。
スターティングドライバーは予選も担当したケナード。ケナードは難しいコンディションの中タイヤとブレーキに入念に熱を入れ、まもなく始まる攻防に備える。しかし早速アクシデントが発生。数台のマシンがフォーメーションラップ中にクラッシュ、そのためセーフティーカーはピットに戻らず、もう一周隊列を整えることとなった。
翌周、グリーンフラッグが振られレースがスタート。ケナードも無事にスタートを切って前のマシンを追いかけるが、またしてもコース上でクラッシュが発生。早くも2度目のセーフティーカーが導入される。

セーフティーカーは 4 周目にコースから離れレースがリスタート。ケナードは再び前のマシンを攻めに入るが 9 周目にスピン。予選の時と同様、またしてもタイヤを痛めてしまう。急きょピットに飛び込んできたケナードだったが、まだタイヤ交換の準備は出来ていなかった。しかしそこはチームスタッフが素早く対応。ケナードのタイヤを交換して再び戦列に復帰させる。するとケナードがピットインしてきたタイミングで再びセーフティーカーが導入、これにより他車のペースが遅くなったので、ピットでのロスタイムを最小限に抑えることが出来たのだ。一時は大きく落としてしまった順位もクラス 5 番手にまで挽回。ここまでの波乱な状況を考えれば、さらに上を臨むことも十分可能である。しかしそんなアクシデントが、今度は KSM に降りかかる。その後は順調に周回していたケナードだったが他車と接触、マシンにダメージを負ってしまう。ケナードはそのまま 2 回目の緊急ピットイン。マシンはガレージに入れられ、修復作業が行われる。これで大きなタイムロスは免れず、上位入賞の可能性が失われたと誰もが考えた。その矢先、赤旗によりレースが中断となった。これはサーキット周辺地域の停電により、タイム計測が行えなくなってしまった事が原因で、マシンの修復のために時間を使う事が出来る KSM にとっては絶好のタイミングとなった。
マシンの修復作業はレース再開までに完了、ここでケナードからジョンにドライバーを交代し、ジョンは中断直前と同じ 5 番手からスタート。ロスタイムをまったく作ることなくレースに復帰した。ジョンは上位進出を目指し果敢にアタック、幸運にも上位を快走していた HPD がスピンで後退。ポジションを 4 番手に上げ、更に前のマシンを追いかけていく。上位のマシンとはほぼ同じラップタイムで走っており、この先のレース展開によっては表彰台も狙える位置につけている。レースも残りわずか、最後の 2 時間は野田がステアリングを握り、チェッカーフラッグを目指して走り切る予定だ。一つ前を走るペスカローロのペースはあまり速くなく、現在の KSM のラップタイムと比較をすると、野田がプッシュをすればゴールまでに逆転することが出来る計算となる。チームにとって初めての表彰台獲得が目の前に迫り、エンジニアと野田が最後の作戦確認をしていた、まさにその時であった。突然ジョンからの無線が入る、トラブルが襲いかかったのだ。ジョンはマシンをコース脇にストップ、どうやらクラッチトラブルのようである。駆動系が原因であり、マシンを動かすことが出来なくなってしまう。あと残り僅か、すべての流れは良い方に傾きほぼ手中に収めていたかに思えた念願の表彰台が、野田にとってはどうすることも出来ない形でこぼれ落ちてしまった。
金曜の練習走行から順調に思えたレースウィークの、まさかとも思える幕切れであった。しかし次に控えるルマン 24 時間に向け、チームは新たに多くのデータや経験を収穫。約 1ヵ月後に迫ったビックイベントを前に、このベルギーラウンドは良い弾みのつくレースとなった。

野田英樹コメント
「前回のフランスから、わずかな時間だったにも関わらずチームは素晴らしい仕事をしてくれたと思います。今回のレースは非常に流れがよく、マシンも、チームも、そして運も、すべてが良い方向に向いていました。しかし、それが結果に繋げられなかった点では、スタッフ、ドライバー共にまだまだ見直すべきところがあるということです。今のイクイップメントならまだまだ上を狙えると思うからこそ、更なる向上をチームと自分を含めたチームメイトにも期待します。

6月に行われるルマン24時間耐久レースに、KSMのエントリーが正式に決定しました。今のチームの流れは確実にいいものです。次のルマンではこれまでの集大成として、必ずや満足のいくレースにしたいと思います。また、今回の参戦に伴い、ご尽力、ご協力いただきました皆様には本当に感謝しております。」