このポルシェもその他のGT3規定車両の例に漏れず、用意されるスプリング、アンチロールバー、シム類には限りと範囲がある。路面μ(ミュー)が低く、耐久性重視のワンメイクタイヤを基準にセットされる欧州の推奨では、日本のハイグリップ、高摩擦係数の路面では「セッティング可能範囲の端(または外が理想)」になる車種の例も散見される。しかし、このポルシェでは「鈴鹿でも富士でも、そういう苦しさはない」という。
「もちろん、走行中のレイク角を探って最適は探しましたし、スプリングも今は……変えないんじゃないかな? あとバンプラバー変えたりするし、アンチロールバーも1ノッチ変えたり。基本的に決まっちゃうと、動きが大きくなる分だけ少し抑える、ってぐらい。それはもうどのクルマも一緒で」
「とくにバンプラバーは自由だし、僕はいつも使ってセットアップするタイプ。もう20年以上やってるので、ありとあらゆる組み合わせは作ってある。タイヤの構造によって変えることもあるし、キャンバーをどこに置くかによって『奥を抑えようか』……というのもある。そのへんは今までのノウハウで。なのでどちらかというと『忙しい運転をするようなクルマじゃないよ』って。なので、去年のやってきたところを思い出して、ここで1回戻そうと」
ハイグリップなタイヤと路面に、ダウンフォースを活用したセットアップ。コーナリングスピードが速ければ速いほど、速度の二乗で遠心力は増えていく。いくら低い位置にマウントされていようと、リヤの車軸より外に置かれたエンジンブロックは、空力が効けば効くほど“慣性”が悪さをする。
「だから高速コーナーの最大荷重のところだけは網羅できない。そこは我慢するしかない」と武士監督。
さらに自然吸気の4リッター、水平対抗6気筒“フラット6”は吸気を考えてもやはり夏場は厳しい。小さいコーナーから武器であるトラクションを活かそうにも、大排気量NAやターボ車の中低回転域トルクには太刀打ちできないのが現状だ。つまり、スーパーGTでは“必修課題”とも言える『集団走行時』に厳しさを抱えている。
「そう。それが今季のテーマ。第2戦の富士ではそこが良かった。予選順位に対しては、いつも決勝で上に行けてる。そこはまあ狙いどおり。去年の前半戦で『ペース上がらない、タイヤがキツい』ってところからはもう完全に脱却してるので、あとはタイヤをもっとチャレンジングなもの、予選で前に行けるようなものが使えれば、もっと上に行けるんじゃないかな?」






