以前の怒りは消えたとはいえ、2016年のつらい記憶は永遠に刻まれるだろうとリカルドは言う。
「あれから4年経っても、あの日のことはとても鮮明に覚えている。まるで頭のなかでビデオを再生しているようにね」
「“あの”ピットストップの後、トンネルに入る前のコーナーを走っている僕は、猛烈に怒っていた」
「もうこのままマシンのトラブルで完走できなくてもいいとすら思っていた。終わってからは誰とも話したくなかったし、もちろん同情してほしいとも思わなかった。ひたすら怒りの感情が続いていたんだ」
「ルイスと一緒に表彰台に立ったことも覚えているよ。僕がコントロールしていたはずのレースで、彼が優勝した。とにかくあの場にはいたくなかった」
「その後、取材場所にいたとき、ふいに気が付いたんだ。モナコで2位に入ったことが人生最悪の日だと思っているのだとしたら、自分は目を覚まさなければダメだと。それ以来、怒りは落胆へと変わり始めた」
「終了後は自分のドライバーズルームでひとりになりたかったけれど、ヘルムート(マルコ/レッドブルのモータースポーツアドバイザー)が会いに来てくれた。彼も打ちひしがれていたんだ。彼は『残念だった』とだけ言って僕を抱きしめてくれた。それにどう対応していいか、分からなかった。彼も僕と同じくらいつらかったんだ」
「それから家に帰った。誰の謝罪も聞きたくなかったし、自分に怒りの感情があるときには、誰かをあげつらってひどいことを言う可能性もあったからね。2年後の優勝で、ようやく素晴らしい気分を味わえたんだ」