今年からIMSAは、ハイブリッドのLMDh車両が戦う『GTP』クラスが、トップカテゴリーに据えられた。WECのハイパーカーと違い、シャシーは4メーカーから選ぶ形で、ハイブリッドシステムはシングルメイク。言ってしまえばハイブリッド化されたLMP2のようなパッケージだが、デザインの自由度は充分にあり、各メーカーの個性はかなり出ている。キャデラックとBMWが、どちらも同じダラーラ製シャシーだとは、外からは分からないだろう。

 そういう意味では、スーパーGTのGT500に近いともいえる。比べれば、やはり純ハイパーカーとして開発されたトヨタやフェラーリ、プジョーの方が懲りまくった造形で奥深さを感じるが(グリッケンハウスとヴァンウォールも忘れていませんよ)、LMDhも実際に見ると全然悪くないなと、メカ好きの僕でも素直に思えた。

LMDh規定のキャデラックVシリーズ.Rは、WECとIMSAの両カテゴリーにデビュー
LMDh規定のキャデラックVシリーズ.Rは、WECとIMSAの両カテゴリーにデビュー

 性能の均衡化も、LMDhに関してはなかなかうまくいっているようで、出始めということもありまだ信頼性やタイヤのデグラデーションに差はありそうだけれど、絶対的なパフォーマンス差はあまりないように感じた。少なくともレース中のベストラップに大きな差はなく、スタート直後やイエローフラッグあけのリスタートは、かなりの混戦状態がしばらく続く。

 しかも、セブリングは全長約6kmでエントリー台数は54台。クルマが途切れることはほとんどなく、LMP2&3やGTDのダンゴ状態トラフィックをGTPがギリギリでかわしながら走る姿は、スーパーGTと同じかそれ以上の迫力がある。やっぱりGTカーじゃなくて、ペッタンコのプロトタイプカーがえげつない走りをするのは見ていて素直に興奮する。しかも、それを12時間延々と続けているのだから、もう肉汁溢れるハンバーガーを5個くらい食べたかのような満足感を覚える。いや、それはさすがに食べ過ぎだろう!?

キャデラック、アキュラ、ポルシェ、BMWのLMDh車両が争うIMSAのGTPクラス
キャデラック、アキュラ、ポルシェ、BMWのLMDh車両が争うIMSAのGTPクラス

 好き嫌いが分かれるのは、IMSAならではの『ウェーブ・バイ』と呼ばれる周回遅れ救済レギュレーションか。トラブルやアクシデントでラップダウンとなったクルマにも、勝負のチャンスを与え続けるこのスタイルは、ある意味プロレスのようだ。ピュアなレースファンは拒絶反応を起こすかもしれない。どんなにいいクルマを作って、ドライバーが頑張って走っても、ガラガラポンで戦況が一気に変わってしまうことが多い。

 実際、今年のセブリング12時間でパフォーマンスも信頼性も低かったBMWが、最終的に2位に入ったのはこのガラガラポンのお陰と、最終盤での上位3台の集団クラッシュがあったからに他ならない。

 それでも、レースが白けたものになるかといえば、そんなことはまったくない。出ているほうも、みんなそれを承知でやっている。格闘技だってガチガチのMMA(総合格闘技)のファンもいれば、ザ・プロレスのWWEのファンもいるように、ショーとしてレベルが高く、人を楽しませることができて、それが多くのファンに支持されるのであれば良いのではないかと、セブリング12時間を見ながら思った。

 少なくとも、IMSAに関してはドライバーもチームもハイレベルで、バトルは最高に楽しめる。やっぱり、同じくらいのパフォーマンスの速いマシンが、延々と集団で戦い続ける光景を見るのは純粋に面白い。そこに、セブリングではウルトラバンピーな路面という要素も加わり、いつ何が起きるか分からないドキドキ感が延々と続く。こんなにも面白さが長続きするレース、なかなかないかもしれない。

路面がバンピーなことで知られるセブリング・インターナショナル・レースウェイ
路面がバンピーなことで知られるセブリング・インターナショナル・レースウェイ

■これからのWECのカギは『性能均衡化の塩梅』か

 比べると、WECのセブリング1000マイルはトヨタの2台がレベチで速く、そして強く、正直昨年までとあまり大きくは変わらないようなレース内容だった。それでも、フェラーリはこれからかなり速くなりそうだし、今回散々だったプジョーもコースによってはキャラ変するかもしれない。

 そして、ついにハイパーカーデビューしたポルシェとキャデラックのLMDh勢。正直、トヨタとの差はかなり大きいと感じたが、熟成が進み速さと信頼性を増せばレースの主役になり得る可能性もある。来年にはBMWも出てくるだろうし、クルマとしてのできがかなりいいアキュラがWECに守備範囲を拡げたとしたら、それはさぞかし盛り上がるに違いない。

 それだけに、性能均衡化の塩梅がこれまで以上に重要になってくるだろう。いずれにせよ、LMDhのローンチによってWECの閑散期が過去のものとなることは間違いない。「耐久レース、また始まったな」と、セブリングで確信した。

多くの観客がキャンプしながらレースを楽しむセブリング。コースサイドには、独特の時間が流れている
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