ここからは、少々強引ではあるが「富士スピードウェイを舞台にSF19とGR010を比較したら」というテーマで、一貴に話を聞いた。
「規定が違うので、レーシングカーとしてのパフォーマンスとしては、SF19の方がすべてにおいて高くなりますね」
これはもちろんGR010がSF19に対して性能面で劣っているというわけではなく、GR010が立脚するLMH規定が、より多くの参戦メーカーを呼び込むために開発ハードルを下げているがゆえのこと。
両車のスペックで最も大きな差となっているのは、車重だ。スーパーフォーミュラを戦うSF19ではドライバー込みで670kgのところ、WECのGR010ではドライバーを含まない状態でも1040kg。ドライバー込みでは1100kgを超え、両車には400kg以上の差があることになる。
たとえばそれは、富士の長いホームストレートエンド、TGR(1)コーナーへのブレーキングで顕著に表れそうだと一貴は言う。
「SF19が1コーナー手前100mでブレーキングを開始するとしたら、GR010は150mとかになるのではないでしょうか」
なお、かつて一貴がドライブしていたスーパーGTのGT500マシンのブレーキングポイントは「意外にも、スーパーフォーミュラよりも少し手前くらい」だという。
「GT500はタイヤの性能が高く、ピークのダウンフォースもありますからね。いまのLMHは、以前のLMP1にあったハイダウンフォース仕様/ローダウンフォース仕様といった空力の使い分けが許されないルールです。LMHはどちらかと言えばル・マン寄りの空力パッケージとなるので、ル・マン以外のサーキットでは、昨シーズンまでよりだいぶダウンフォースが少ない状態で戦うことになります。そのあたりも、差が大きくなる要因でしょうか」
車重や空力性能の差はコカ・コーラコーナーやトヨペット100Rコーナーでも表れそうだ。
「クルマが軽いしグリップもするので、SF19の方がライン取りに自由度がありそうです。100Rの入口も幅広く取れますし、出口で外側まで行っても戻って来られる。冬のテストでは基本、全開ですしね。それに比べるとGR010ではやはり車重の違いもあるので、100Rは小回りする(イン側の)ラインになるはずです」
「ただ100RについてはGT500でも小回りした方が、グリップすることが多い。レースウイークは走っている台数も多いので、内側のグリップがどんどん高くなっていくんです。LMHでもGT500と同じように、よりインサイド、インサイド……となっていくかもしれませんね」
繰り返しになるが、両車の差はあくまで規則の差である。そして、産声を上げたばかりのGR010については「伸びしろ」も多く存在する。
「僕らが開発陣にお願いしているのは、『レースで強いクルマ』。トラフィック(周回おくれ)を処理するときのダウンフォースの抜けなどを減らしてほしい、とリクエストしています」
間もなく始まる新シーズン、コロナ禍においてグローバルな移動を強いられる一貴にとっては、各国の移動規制や隔離期間などは頭の痛い問題となる。WECのカレンダー変更によりスーパーフォーミュラ開幕戦には出場ができる見通しだが、「現時点では、何レース(スーパーフォーミュラに)出場できるのか不透明な部分はあります」と一貴。
「だからこそ、出られるレースを大事にしたいと思っています。富士は昨年の最終戦、そのあとのテストと、正直いい感触はなかったのですが(苦笑)、幸い開幕前に富士でのテストもありますし、そこできっかけをつかんで開幕戦はいいレースにしたいですね」
GR010のデビューシーズンとなるWECに関しては「開幕が遅れたことでしっかりと新車の準備ができる。そこはポジティブに捉え、レースを戦っていきたいです」と一貴は言う。
「ただ、今年はルール的にはどんなクルマでもイコールになりますし、(ライバルである)グリッケンハウス、アルピーヌともに、ドライバー含めてまったく油断できない相手。自分たちの仕事をして力を出し切らないと、勝てるレースを落としてしまうことになりかねない。しっかりと気を引き締めて、開幕に臨みたいと思います」
秋に控える富士での6時間レースについては、「正直、まだそこまではイメージできていないです」と一貴は素直に打ち明ける。
「ただ、昨シーズンの富士のレースがなくなってしまったことで、チームの中でも『富士、行きたいよね!』という声は多いんです。まずは無事にレースが開催されることを願っています」
ニューマシンのGR010は当然、気になるところではあるが、まずはF1に次ぐ速さを誇るスーパーフォーミュラのSF19を富士で体感しつつ、秋に来日するGR010を見て、2台のマシンが富士スピードウェイを力強く駆け抜ける姿を目に焼き付けたい。
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