2023年の目標に向けて、アウディ、そしてチームのインフラは現在、十分整っていると言えるのだろうか。アウディF1チームはスイス・ヒンウィルの元ザウバーファクトリー、ドイツ・ノイブルクのアウディ開発拠点、そしてイギリスのビスターの3各国、3つの拠点でチーム運営を行なっている。
「まず、ヒンウィルとノイブルクの両方についてですが、ノイブルクは必要なインフラがすべて揃っています。とても素晴らしい施設で、必要なダイナモ(テスト設備)やスペースもすべて完備されています。一方でヒンウィルは、現在の私たちのニーズに対してまだスペースが不足しています。新しいシミュレーターの開発に着手しましたが、そのシミュレーター自体が非常に大きいため、新たに建物が必要です」
「また、製造能力を拡大する必要もあります。特にコンポジット(複合材)の内製化はF1では非常に重要で、開発スピード、品質、そしてコスト・予算制限の面でも自社生産が必要不可欠です。エンジニアのデスクも増やす必要がありますし、とにかく全体的にもっとスペースが必要です。アウディは前に言った通り、私たちの取り組みに完全にコミットしており、施設やキャンパスの拡張に向けて一緒に取り組んでいます」
今年からのF1新規定ではこれまで以上にバッテリー回生への依存が強くなる。バッテリーや燃費のマネジメントが厳しくなることで、ストレートによっては全開でオーバーテイクできない場面が多くなるのではないか、という懸念もある。シミュレーションなどで、すでにそうした兆候はどこまで見えているのだろうか。
「まず、新レギュレーションではMGU-K(運動エネルギー回生システム/電気エネルギー)が120kWから350kWへと大幅に強化されています。つまり、より多くのパワーを使うにために、より多くのエネルギーが必要になります。一方で、バッテリー回生の重要な要素だった MGU-H(排気ガスの熱エネルギー)の使用が廃止されました。回生量は減ったにもかかわらず、必要な電力量は増えています。したがって、ラップ中にどれだけ効率良くバッテリーを再充電できるかが、今後の開発の大きな鍵になります」
「どこで回生するのか、ストレートの終わりか、ブレーキング区間か、スロットルオフの瞬間かなど、これは各メーカーの創造性が問われる領域です。より効率的な回生ができれば、そのぶん350kWの電力を効果的に使えます。新レギュレーション下の大きな挑戦のひとつですね。MGU-Hがなくなったことで『回生量が少ないのに必要電力が大きい』という新たなパズルが生まれたわけです」
その大きな変更は、レースの性質をどの程度変えるのだろう。
「電力のデプロイ(配置/放出)にはたしかに影響を与えるでしょう。(レギュレーションでダウンフォースが削減されることもあり)新車はコーナーが遅く、ストレートは速くなるという特性があります。そのため、以前とは少し違うレースになるかもしれません。ただ、私は1月9日にバルセロナでのフィルミングデーで実際のクルマを見ました。ストレートを走る姿は迫力があり“新しいけれど、ちゃんとF1だ”と感じました」
「ドライバーにとっては異なるタイヤ特性、異なるグリップ、異なるエネルギーマネジメントに対応する必要があり、ドライビングスタイルも変わるでしょう。しかし、人間はすぐに順応します。ファンも楽しめるはずです。そして重要なのは、エンジン音がとても良くなっていることです。新しいサウンドは、多くの人に歓迎されると思います」
今のアウディF1チームは、他のトップチームと比べてどのような立ち位置にあると思うか。
「それは比較が難しいです。他のチームの内部までは分かりませんから。しかし、アウディがどういうチームであるかはよく知っています。エネルギーに満ち、未来と成功に向かって全力で取り組む素晴らしいチームです。私は、成功するために必要なものがすべて揃っていると確信しています。いつか必ず実現すると信じています」
開幕戦、オーストラリアのメルボルンでのレース後、どんな結果ならアウディF1として笑顔になることができるのだろう。
「まずは完走、つまり信頼性の確保が第一です。現段階の開発では非常に重要です。週末を通して大きな問題なく走り切れれば、ドライバーやチームにとって車の理解を深め、さらなる開発につながります。開発を進めるには、走行時間が不可欠です。ですから、信頼性があること、レース距離を完走すること、何らかのポジション争いができることが理想です。スタート地点よりも、シーズン中の成長が何より重要です」
⚫︎マッテア・ビノット
1969年スイス生まれ、イタリア国籍。ヨーロッパの工学系大学としてトップクラスの名門校、スイス連邦工科大学ローザンヌ校を卒業し、イタリアのモデナ・レッジョ・エミリア大学で自動車工学の博士号を取得。その後フェラーリに入り、エンジン・エンジニアとしてF1キャリアをスタートした。2014年にパワーユニット責任者となり、2019年から2022年までチーム代表を務め、現在はアウディF1プロジェクト責任者の肩書きを持つ。


