シーズン序盤はこの年から使用することになるジャッド・エンジンと、マーチのCART時代のトランスミッションをベースに新設計された6速ギヤボックスにトラブルが相次いだ。87年、日本のレイトンハウスのサポートにより、10年ぶりにF1復帰したばかりのマーチとすれば経験不足は否めず、何よりアメリカを主戦場としていたニューウェイが見るサーキットのほとんどが初めてというくらいF1初心者状態だったのも少なからず悪影響だったかもしれない。

 それでも同じジャッドV8を搭載するウイリアムズの貢献もあって、エンジンの信頼性が上がっていくにつれ、881はその速さを少しづつ披露し始めていく。シーズン中盤、特に第8戦イギリスGP以降は、イワン・カペリがコンスタントに予選トップ10に名を連ねるようになり、マウリシオ・グージェルミンの的確なフィードバックも881の速さに磨きをかけた。

 ダウンフォース増を目指し、レースごとにさまざまな形状のフロントウイング(時に前後2段型)や翼端板、長短フロントノーズを持ち込んで試し、サスペンションのピックアップポイントも変更。右コーナーに合わせてフロントウイング右側の翼端板だけにスカートを付ける、空力的に興味深いセッティングを施したこともあった。

エンジンフードが外された状態のマーチ881
エンジンフードが外された状態のマーチ881

 第15戦日本GPでの“たった1周のラップリーダー”で、881の速さを記憶されている方もいるだろう。アイルトン・セナが初のタイトルを決めたこのレース、序盤をリードしたのはセナのチームメイトであり、タイトルを争っていたアラン・プロスト。ふたりが駆るMP4/4は、鈴鹿前までに合わせて13勝を数えており、同じホンダV6ターボのロータスさえ近づけない、異次元の速さを示していた。その最速マシンに881は一矢報いたのである。

 予選4位のカペリは、ポールポジションのセナがエンジンストールして後退したのにも助けられ、スタートで3番手へ。さらにゲルハルト・ベルガーが駆る、こちらもターボエンジン搭載のフェラーリをかわして2番手に上がり、自身の最速ラップを叩き出しながら、首位プロストとのギャップを縮めていった。ストレートではマクラーレン・ホンダに敵わなくとも、コーナーでは明らかにマーチの方が速い。この時プロストは、わずかだがギヤボックスにトラブルを抱えていた。

 881はついに最速MP4/4の背後に迫った。シケイン立ち上がりでシフトミスしたプロスト。その機を逃さずスリップに入ったカペリは、ストレートを駆け下りながらプロストの左へ飛び込んだ。トップでコントロールラインを通過したがカペリと881だったが、ホンダV6ターボのパワーにはさすがに分が悪く、1コーナーまでプロストに抜き返されてしまう。わずか400mほどのトップだったが、瞬間でも881がMP4/4の前に出たのは事実であり、そのカーナンバーと同じく16周目のラップリーダーに刻まれたのだ。

 カペリにとっては自身初のラップリーダーであり、1.5リットルターボと3.5リットルNAが混在していた88年、全16戦のうちNAエンジンがラップリーダーとなったのは、この1周だけだった。

 ふたたびプロストを追う立場となったカペリだが、20周目に突然ジャッド・エンジンが止まり、惰性でストレートまで戻ってきたところで完全に停止した。トラブルの原因は不明だったが、レース後、一発でエンジンはかかったという。レースに「たられば」は禁物だが、もしジャッドが順調だったら、マクラーレンのセナ、プロストに続いて表彰台に上がったのは、カペリだった可能性は高い。

マーチ881に搭載されていたジャッド製V8自然吸気エンジン
マーチ881に搭載されていたジャッド製V8自然吸気エンジン

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