──予定よりも早く2017年にホンダとの契約が解消になった時は、どう思いましたか。
「2018年はレッドブルではなくトロロッソ(現アルファタウリ)にホンダ製パワーユニットが供給されることになっていたが、将来的にどこに行き着くのか、その結末は明白だった」
「マクラーレンがホンダとの提携解消を発表した翌日に、シェイク・モハメド(バーレーン・マクラーレン筆頭株主)と食事をしたのだが、彼が来るなり私は『モハメド、今夜は眠れそうにもないのですが、なぜだか分かりますか? 2020年か2021年にはレッドブルがホンダと優勝するようになるからです』と伝えたんだ」
「マクラーレンは、なんと愚かな決断をしたのか! 最終的にマクラーレンは年間1億ドル以上に相当する契約と、2021年の世界選手権を制覇する可能性を持ったパワーユニットの契約を両方とも破棄してしまったんだ」
──しかもマクラーレンは、以前のような経済的に強い立場にはいませんよね。
「状況は、つねに変化するものだよ。私がチームに加わった1989年当時、F1はタバコ産業の一部であり、まるでタバコのパッケージを走らせているようだった。でも我々は、ホンダという切り札を手にしていた。彼らはメインスポンサーであり、当時最強のエンジンメーカーでもあったんだ」
「我々は次々とチャンピオンシップを制覇したが、おそらく他のどのチームよりも多くの資金を手にしていた。それが最高のドライバーと最高のエンジニアをチームに惹きつけることができた理由だよ」
──正直なところ、マクラーレンは今季レッドブルが連勝を重ねているのが、相当悔しいのではないですか。
「まさに、“完璧なチケット”だったからね。もし、パワーユニットがトロロッソだけに供給されると考えていたのだとしたら、マクラーレンは大きな読み違いをしていたことになる。パフォーマンスさえ良ければ、いずれレッドブルに供給されるのは明らかだったからね」
「ホンダには独特の文化があり、最初の頃は一緒に働くことができてうれしかったものだ。他のどのメーカーよりも、レース文化が根付いていたと思う。当時は本田(宗一郎)さんがご存命だったことも大きかった」
「そして、そのレース文化は今も残っている。彼らの仕事は極限まで徹底されていて、F1の歴代優勝エンジンを見ると、革新ではなく技術の蓄積に磨きをかけることで偉業が達成されているからだ」
「ロンは性急にことを進めようとしたが、そういう時に人は心を閉ざしてしまうものだ。そこでロンはスタッフをマネージメントするのではなく、“たたいて”動かすことにした。ロンが背後で彼らの頭をたたき、チームはフェルナンドが公の場でホンダを批判するのを許してしまったんだ。そんな状況では、ホンダの力を引き出せるわけがない」
──現在のレッドブルが行っているような情報の共有を、マクラーレンがしていなかったことも明らかですよね。
「同じチームにいても、ロンと私は文化的にまるで違っていたことを覚えていてほしい。ロンは古いタイプの人間で、『情報は与えないもの』だと考えていた。かつてロータスのコーリン・チャップマンも『すべては秘密のまま』にしていたが、私の視点はつねに異なっていた」
「共同作業なのだから、相手を信頼できなければ、一緒に仕事をするべきではない。信頼することで、より多くのことが得られるからだ」
「私が社内やパートナーに対してオープンであることに、ロンはつねに反対していた。そして、彼は大きな影響力を持っていたので、すべてをたたきつぶしてしまったんだ。自分で言うのもおこがましいが、私ならホンダとマクラーレンを長期に組ませることができていただろう。両社がうまくいくことは分かっている。以前にも一緒に戦い、大きな成功を収めた経験があるのだからね」
■Honda RA615H HONDA Racing Addict Vol.1 2013-2015
発売日:2021年7月28日(水)
定価:1300円 (本体価格1182円) 
