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F1 ニュース

投稿日: 2023.03.16 12:15
更新日: 2023.03.16 12:24

ミカ・ハッキネン独占告白。マクラーレンMP4-12とメルセデスV10、F1初優勝の物語

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F1 | ミカ・ハッキネン独占告白。マクラーレンMP4-12とメルセデスV10、F1初優勝の物語

──開幕戦オーストラリアGPでは、幸運にも恵まれてチームメイトのデビッド・クルサードが初優勝を飾りました。あなたとしては、少し複雑な心境だったのではないですか。

「開幕戦で勝利を挙げるなんて、これ以上にうれしいことはない。素晴らしいことだよ。確かに優勝したのが自分ではなかったことは悔しかったが、長いトンネルの先にようやく一筋の光が見えた気がした。自分もさらに頑張ろうと、前向きな気持ちになれたしね。いつかは、自分の番が来ると信じていたから」

──しかし、序盤戦のMP4-12は、それほどコンペティティブではありませんでした。これについてどう思っていましたか。

「最初はまだ完璧とは言えず、パフォーマンス不足だった。メルセデス・エンジンはある程度のパワーを発揮し始めていたけれど、空力やメカニカルな面ではまだ問題を解決できていなかったんだ。ドライバー、エンジニア、そしてデザイナーたちも、正しい答えを見つけられずに悩んでいた。シーズンが始まっても手探り状態で、僕は常にどこかで妥協しながらドライブするしかなかったんだ」

──そういった中でも、進化を感じられた部分もありましたか。

「排気システムに関しては、コーナーの立ち上がりでトルクを向上させる方法を見つけ出し、開発も順調に進んで素晴らしい成果を挙げていた。先ほども話したけど、エンジンパワーが上がるとダウンフォースが増すので、ブレーキングのタイミングを少し遅らせてライバルのマシンよりも速いスピードでコーナーに入ることができ、コーナーを立ち上がる際のトラクション性能も向上する。これをメルセデスとイルモアが実現してくれていたので、前進している部分もあった」

デイビッド・クルサード(左)とミカ・ハッキネン(右)
デイビッド・クルサード(左)とミカ・ハッキネン(右)

──52周目までトップを走行していた第9戦イギリスGPは、間違いなく初優勝のチャンスでしたが、残念ながらエンジントラブルが発生してしまいました。

「シルバーストンで優勝できていたら、どんなに素晴らしかったことか。でも残念ながら、エンジンがブローしてしまったんだ……」

──ピットまで歩いて戻るのは、精神的につらくありませんでしたか。

「実は、それほどでもなかった。パフォーマンスに関しては、方向性が間違っていないと分かっていたからね。メルセデスはパワフルで高性能なエンジンを作っていたので、頭ごなしに非難するのではなく、彼らにミスから学ぶ時間を与えるべきだと思っていた。それに、当時はレギュレーションの規制が何もなかったので、1日24時間、1日たりとも休むことなく、スタッフはパーツを作り、ダイナモでエンジンを動かす作業に取り組んでいた。それこそ、死に物狂いで働いていたことを知っていたからね」

「一方で、僕はF1ドライバーでモナコに住み、朝起きてからテニスをしたりトレーニングをしたり、テストやレースに備える時間もたっぷりあった。だから、レースでエンジンが壊れたからといって、彼らを責めることはできない。全力を尽くして最高のエンジンを作ろうと努力を重ねてくれていたからね。メルセデスの目指す方向は正しいと感じていたし、いつかは100%の力を発揮し、成功をつかめると信じていた。だから、彼らに時間を与える必要があると思ったんだ」

「1997年シーズンは何度か勝てそうなレースがあったのに、マシントラブルのせいでそのチャンスを失っていた」と語ったハッキネン
「1997年シーズンは何度か勝てそうなレースがあったのに、マシントラブルのせいでそのチャンスを失っていた」と語ったハッキネン

■ニューウェイの魔法

──8月にエイドリアン・ニューウェイがチームに加入し、シーズン終盤に新しいフロントウイングが投入されました。その効果をすぐに感じましたか。

「ポール・リカールで、フロントウイングのテストを行なったと記憶しているが、本当に信じられないような経験だった。マシンの空力がすっかり変わり、その違いをまさに体で感じたんだ。いち部分を少し調整しただけだったのに、空力がマシンに与える影響の大きさを知ってすごく驚いたよ」

「あらゆるパーツがパフォーマンスに好影響をもたらす完璧なマシンを手にするためには、それを実現させる能力を持った人材がいなくてはならない。エイドリアンの加入でそれが可能になったので、僕たちは前進できたんだと思う」

エイドリアン・ニューウェイの加入はマクラーレンを大きく前進させた。「マシンの空力がすっかり変わり、その違いをまさに体で感じたんだ」とミカ・ハッキネン
エイドリアン・ニューウェイの加入はマクラーレンを大きく前進させた。「マシンの空力がすっかり変わり、その違いをまさに体で感じたんだ」とミカ・ハッキネン

──当時は、まさにテスト漬けの日々でしたね。

「ああ、そうだね。当時のテストプログラムを思い出すと、信じられないくらいのハードスケジュールだったよ。シーズンが始まる前に走り込んだ距離は、現在のドライバーたちが1シーズンで走るレースの総距離を上まわっていたと思う。まさに常軌を逸していて、正直やりすぎだったね(苦笑)。マクラーレン時代はとにかくハードに働いていた記憶が印象に残っている」

──それだけテストを重ねていたのにも関わらず、第15戦ルクセンブルクGPではまたしてもトップを走りながらも、44周目にエンジントラブルが発生してリタイアに終わりました。かなりショックだったのではありませんか。

「依然として、エンジンの信頼性に問題を抱えていた。ダイナモ上ではレースディスタンスをこなせているから、コース上でも完走できるはずだと考えられていたが、実際にはそれができなかったんだ。実際のサーキットではコーナーでGがかかり、エンジンの片方にオイルが偏る。こうした細かいことは、ダイナモでは試せないことだったからね。つねに何かしらの問題が発生し、そのたびに解決しなければならなかったんだ」

「これはメルセデス時代ではないが、あるエンジン担当者から1000回転落としてくれたら、ブローしないと言われたことがある。それはまるで『ミカ、1秒タイムを落として走れるかい? そうすれば、マシンが壊れずに済むから』と言われているようなもので、ドライバーとしては、『何を言っているんだ。1秒も遅く走るわけにはいかないよ』と答えるしかない」

メルセデス製V型10気筒エンジン
メルセデス製V型10気筒エンジン

──高性能のエンジンになりつつあるのに、信頼性の問題だけがクリアできない状況が続いていましたよね。

「そう。全体としては良い方向に向かっていて、トルクも回転数もエンジンパワーも申し分ないのに、信頼性だけが低かったんだ。いつまで経っても、壊れやすいエンジンのままだった。テストの際にはいつもできる限りエンジンの回転数を上げて縁石に乗り上げ、マシンを路面に叩きつけたりして車体を傷めつけるようなことを試していた。テストでマシンを壊しておけば、レースを最後まで走れるようになると思っていたからだ」

「でも、それも役には立たず、相変わらずトラブルに見舞われ続けた。僕たちの最大の弱点は、信頼性の低さだったんだ。でも、これは僕だけではなく、デビッドもそうだし、後年に僕の後を引き継いだキミ(・ライコネン)も同じだった。いともたやすくライバルたちにポイントを献上してしまうわけだから、最悪の気分にさせられたよ」

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