ポルトガルはトリッキーなサーキットだが、角田は素早く学び、FP3が終わるころにはピエール・ガスリーのラップタイムに近づいていた。だがその週末、マシンがさほどコンペティティブではなかったために、ガスリーは0.05秒差でなんとか予選Q3に進出できたが、角田はQ2どまりとなった。そして決勝で角田は15位、後ろにはウイリアムズとハースしかいなかった。
スペインはもっと悪かった。FP2とFP3ではガスリーに匹敵するペースを発揮していたが、予選Q1で16番手に沈んで敗退したのだ。ガスリーがたった1回のランで5番手タイムを出していた時にだ。
大人ならぐっとこらえて、メディアには「僕が1周をうまくまとめられなかったんです」と言って、ガレージに戻ってデータをチェックして、自分の何が悪かったのかを調べるだろう。それが正しい行動だ。しかしユウキはどうしたか? 無線でわめき、メディアに対して、ボクのクルマはガスリーのと違うみたいに感じる、などと言ってしまった。そして、自分の発言の重大さを知って、慌てて謝罪する羽目になったのだ。とにかくこの子は興奮しないで落ち着く必要がある。レースの世界ではあっという間にヒーローからゼロに転落するのだから。
以前も言ったと思うが、角田には速さと才能があり、レースの技術も素晴らしい。だが、まだ子どもだ。ホンダの育成プログラムは、メルセデスやルノーのドライバーへのサポート体制とは異なっている部分があるし、レッドブルのプログラムはといえば、ヘルムート・マルコの気まぐれに翻弄されっぱなしだ。F1は恐ろしく政治的な世界だ。この若者がバルセロナでしたようなひどい過ちを二度と犯さないで済むよう、彼をしっかり指導する者が必要だろう。
もちろん、経歴から言って、自分が適任だと私は思っている。過去に、平凡なドライバーを一流に見せることにすら成功した私だ。ドライバーをうまくしつけることもできる。ただし、ホンダのなかには私を誤解している人間がいるようなので難しそうだ。なので、角田が長くF1に残れるよう、誰か若くて経験もある人物を選んで、角田の面倒を見させるべきだ、というアドバイスだけしておこう。具体的に誰が適任かって? 他の誰かを推薦して、私に何の得がある? まぁ、手数料をくれるなら話は別だが……。
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筆者エディ・エディントンについて
エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。
ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。
しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。
ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。