2021年に、角田裕毅のF1ルーキーイヤーを見守り、時に温かく励まし、時に手厳しく批評をしてきたことでお馴染みのエディ・エディントン(仮名)氏に、2021年F1アブダビGPの物議について、忌憚のない意見をぶつけてもらった。FIAのF1レースディレクターであるマイケル・マシが、レギュレーションを無視する形でレースを動かしたことが、ドライバーズチャンピオンシップの行方に影響したこの一件、エディはどう見ているのか──。
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ルイス・ハミルトンがシーズン前に引退するかもしれないと騒いでいる人たちがいるが、このうわさを目にするたびにうんざりしてくる。本気でそんなふうに考える人間がなぜいるのか、私には理解できない。ルイスが正気を失って、「もうF1にいたくない、やめてしまおう」と考える可能性があるとしても、その場合はアブダビGPの翌日か翌々日に決めてしまったはずだ。1カ月以上も考えてから決断するわけはない。
実際のところは、メルセデスとハミルトンは、FIAとF1グループがこのスポーツの運営方法を改革することを望んでいるだけだ。“やめてしまうかもしれない”という不安をうまく利用して、彼らに強いプレッシャーをかけているのだ。だから、あと何週間かすれば、FIAとF1はいくつかの改革について発表するだろう。そしてルイスはニューマシンの発表会に登場し、「FIAは重要な改革をしてくれる。それによって今後は不当なことが起こらないと僕は信じているよ」とかなんとかコメントするに違いない。
F1でこういう駆け引きが行われるのを、エディおじさんはこれまで何度も見てきた。だから、一部のメディアが大げさに書き立てていることを信じない方がいい。
■20世紀で時が止まっているかのようなFIAの体制。そろそろ前に進むべきだ
それはそれとして、FIAについて、言いたいことがある。20世紀で時が止まっているかのように、彼らの体制は何もかも旧態依然としている。運営しているのは皆年寄りで、1950年代に私の母とデートしていたような年齢の人間ばかりだ。ちなみにエディントン母は今、80代だ。若いころはたいそう美人で……また脱線するなって? まだ何も言っていないじゃないか。まあとにかく、私が言いたいのは、FIAは古臭い組織で、そろそろ前に進む必要があるということだ。
1980年代終盤から1990年代半ばまで、F1レースの安全面を取り仕切っていたローランド・ブリュインセラエデという人間がいた。彼は常によそよそしい態度で、パドックを独裁者のように闊歩していたものだ。ブリュインセラエデはマックス・モズレー(彼こそ真の独裁者だった)と何度もぶつかった後、F1の職を辞した。その後、同様の役割を担ったのが、チャーリー・ホワイティングだ。
ブリュインセラエデは、F1レースディレクター時代、何度も間違いを犯したが、彼の人生はいたってシンプルだった。それにはたくさんの理由がある。当時のサーキットは危険で、グラベルトラップに囲まれており、ウォールが近かった。マシンはもろく、激しい衝突が起きると、ドライバーは骨折しかねなかった。つまり、高速で接触すると、命にかかわる状況だった。
「武装した社会は礼儀正しい社会になる」という言葉があるが、マシンとサーキットが危険であることによって、ドライバーたちは相手を尊重する気持ちを強く持つようになり、それが結果的にブリュインセラエデの仕事を楽にしていたといえるだろう。
だが今は、すべてが無菌状態で、退屈といってしまいたくなるほど安全でなければならない。そして、F1ドライバーという人種は、相手が少し譲歩するとどんどんつけあがってくる。
そういうわけで気の毒なマイケル・マシがいずれ厄介な状況に陥るだろうことは分かり切っていた。組織内に彼をサポートする体制ができていないのだからなおさらだ。
マシに必要なのは、彼自身が望まない限り、チームやドライバーと話をする必要がないような環境だ。そういう体制ができていれば、マシはセッション中、レース中に起こる大きな問題に集中することができる。
今回はFIAは口先だけでごまかしてはいけない。行動を起こすべき時が来ているのだ。F1チームで経験を培った優秀な人材を雇い入れることに投資すべきかもしれない。チームマネージャー、スポーティングディレクターを務めた人々の見識を、意思決定プロセスに反映させるのだ。そうしてマシをサポートする体制を作り、その責任を担う重要なポストを設ける。チャーリーにハービー・ブラッシュがいたようにだ。彼らはふたり合わせてF1での経験は90年以上のベテランコンビだった。
マシには、経験豊かな右腕が必要だ。プレッシャーにさらされたとき、あるいは過去に物事がどう処理されたのか知らないようなときに、愚かな過ちを犯さずに済むよう助けてくれるような人物だ。
規則とプロトコルを明確化することは助けになるだろう。だが、同時に、FIAは、経験があり、人々から尊敬される人物を、マシのそばに常に置くことを考えるべきだ。
さて、そこでだ。彼らがそれを本気で望むなら、私は一肌脱いでもいいと思っている。うぬぼれるわけではないが、私なら、この数年に起きた数々の混乱を片づける手伝いができるだろう。……おい、何を笑っている。私が過去にどれだけの問題を解決してきたのか話してあげるから、聞きなさい。
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筆者エディ・エディントンについて
エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。
ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。
しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。
ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。