ベッテルもまた、イスタンブール・パーク・サーキットでは、過去に苦い経験を積んでいる。2010年のチームメイトのマーク・ウエーバーとの接触事故だ。トップを走行していたウエーバーに、2番手のベッテルがオーバーテイクを仕掛けサイド・バイ・サイドになった直後、ベッテルのマシンがわずかにウエーバーの方に動き、2台は接触。ベッテルはスピンを喫してリタイア、ウエーバーはレースを続行したものの、3位に終わった。
この接触でレッドブルのドライバー同士の関係は冷え込み、ポイントのつぶし合いが始まり、タイトル争いがその後混迷する原因を作ってしまう。その原因を作ったウエーバーとの接触事故を起こした場所が、イスタンブール・パーク・サーキットのターン12。それは、今回のトルコGPでルクレールがペレスに仕掛けてミスした、あのコーナーだった。それをベッテルは後方で見ていた。
「シャルルと接していると、ときどき彼のなかに、自分がいるように感じることがある」とトルコGPのレース後、ベッテルは語った。相手のなかに自分を感じるというのは、もうひとりの自分を意識することである。これを心理学では『ホムンクルス』(頭の中の小人)と言い、自分の行動をコントロールして危機やトラブルから回避することに役立つと考えられている。
トルコGPのファイナルラップでペレスのインに飛び込んだルクレールを見て、ベッテルは10年前の自分を思い出したのだろうか。
「イスタンブールは僕にとって、特別な場所。ここでは、いろんなことを学んだ。シャルルとはこれまでいろんなことがあった。でも、彼はいいヤツだし、僕ももう成熟していると思う」
「今回のレースは、本当に厳しかった。しかも、ファイナルラップでああいうことを経験すれば、打ちひしがれるのは当然だろう。でも、彼がこれまでに成し遂げてきたことを考えれば、それが彼の将来に悪い影響を与えるとは思っていない」(ベッテル)
2007年にF1にデビューしたハミルトンとベッテル。13年という歳月はルーキーだったふたりをこんなにも大きく成長させていた。