5月1日に、アレックスが亡くなりました。アレックスと私はF1のレギュラー参戦時期は被っていなかったのですが、2001年にCART(のちにチャンプカー・ワールドシリーズへと名称変更後、インディカー/IRLに統合された)で同じグリッドで戦っていました。

 彼は、みなさんが抱いているイメージどおり、チャレンジ精神や闘魂という言葉が似合う人でした。ザナルディは1990年代前半のF1参戦期を経て、1996年から3年間チップ・ガナッシ・レーシングからCARTに参戦し、1997年と1998年に2年連続タイトルを獲得しました。その実績を伴って1999年にウイリアムズのシートを得てF1に復帰しましたが、1年でウイリアムズとの契約を打ち切り、1年の休養を経て2001年にCRATに戻りました。

 ただ、2001年の彼はCARTで結果が出ない時期が続き、苦しんでいました。アレックスとは違うチームでしたし、そこまで深い関係ではありませんでしたが、私もF1からCARTに来て苦しんでいた時期だったので、あまりにも求められるドライビングスタイルが異なる現状に『F1との違いを埋めるのが難しいよね』という話をたびたびしたことを覚えています。コース上でのアレックスはめちゃくちゃアグレッシブな走りだったのですが、彼の持ち前のアグレッシブさが思うように結果に結びつかないことに悩んでいました。

2001年CART第1戦モンテレイ(メキシコ) 手前52号車は中野信治(フェルナンデス・レーシング)、後ろの66号車はアレックス・ザナルディ(モー・ナン・レーシング)

 そして、あの事故です。第16戦ドイツ・ラウジッツリンクでアレックスは序盤からトップを守り、最後のピットを終えてもう少しで優勝という状況でした。そこで、あの大事故が起きてしまいました。私はあの事故の際、彼らの数台後ろを走っており、発生直後に現場を走っていました。正直、何が起きたのかわかりませんでした。クルマを降りて詳細を聞いた際はショックでしたし、その次のオーバルレースの際、コースに入るときに恐怖を抱いたことを覚えています。

 その後の彼の復活劇は凄まじく、WTCC世界ツーリングカー選手権での活躍や、ハンドサイクリング転向後のパラリンピックでの金メダル獲得と、アスリートとして素晴らしい実績を残したことは、みなさんもご存知かと思います。そんなアレックスと最後に会ったのは2019年に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT×DTM特別交流戦でした。

ハンドドライブでレーシングカーを駆るアレックス・ザナルディ
ハンドドライブでレーシングカーを駆るアレックス・ザナルディ

 4号車BMW M4 DTMのドライバーとして富士に来たアレックスに「乗ってみる?」と誘われて、彼の乗るDTMマシンに座らせてもらったことを覚えています。アクセルだけではなく、通常踏力で踏み切る重いブレーキを、腕の力・レバーを押すスタイルで操作する大変さを聞いた際に「この男バケモノだ」と思いました。腕だけでハンドリングからアクセル、ブレーキを操作して、他のマシンと真剣勝負を繰り広げている事実に、人間は極限まで突き詰めるとなんでもできるんだと思うと同時に、人間は自分から“自分の限界や壁”を作ってしまっているのかもしれないと感じさせられた出来事でした。

 アレックスは、戦うこと・チャレンジすることがとにかく好きな人でした。アレックスが亡くなったことはとても悲しいですが、最後まで諦めない、戦い続けるというアレックスの生き様は、彼の戦いを見届けたいろいろな人に受け継がれていくでしょう。私も負けられないなと言いますか、いい年齢になっていますが、自分で自分に限界を作らず、いろいろなチャレンジを続けていこうと思います。たくさんの発見や気づき、そして思い出をくれたアレックスには、改めてありがとうと伝えたいと思います。

ハンドサイクルレースに挑戦していたアレックス・ザナルディ
ハンドサイクルレースに挑戦していたアレックス・ザナルディ

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。

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