LMHの初期案では、同規定が2020/21年シーズンから採用されることになっていた。しかし、新型コロナウイルスの影響によって選手権のスケジュールが変更されたこともあり、その導入は2021年の“シーズン9”からとなった。この間、WECの新規定は前述のベース車にかかる規定変更を含め複数回の改定が行われ、車両スペックもその都度変更されてきた。
当初の案では、ル・マンでの想定ラップタイムが予選で3分20秒とされていたが、現在は3分30秒へと下方修正されている。また、初期の案では空力開発が可能なエリアを制限するとしていたが、これは2019年の規則概要発表時に量産ハイブリッド・パワーユニット(エンジン+MGU-K)の搭載義務とともに撤廃された。また、この段階でノンハイブリッド車両の参戦も認められている。
ハイブリッドシステムについてはLMP1-H時代に可能だった電動モーターでの4輪力行が禁止され、ドライタイヤ使用時は120km/hから、ウエット路面時は140km/h以上で前輪のみを駆動させるスタイルに変更。モーター出力と回生は200kWに制限され、MGUの搭載位置はフロントのみ可となっている。
エンジンは形式・排気量とともに規制はなく、規則上はロータリーエンジンでの参戦も可能だ。一方、認められるのはガソリンエンジンのみで、かつてアウディとプジョーが採用したディーゼルエンジンは使用できない。最高出力は19年の発表時には585kW(約795PS)とされていたが、翌2020年1月に発表されたLMDhに合わせるかたちで規則変更が行われ、500kW(約680PS)に改められた。
■ボディサイズは大型化。エアロは通年1種類
パワーユニットの合計最大出力が旧規定の735kWから500kWに削減されるなか、シャシーはLMP1カーと比べて大型化。最大寸法は全長5000mm、全幅2000mm、全高1150mmといずれも上限値が拡大された。ホイールベースは最大3150mmとされ、最低重量は初期案の1100kgから70kg少ない1030kgに落ち着いている。これらの数値はいずれもLMDhのスペックと同じ数値だ。
この他のLMHの特徴としては、LMGTEプロクラスでも用いられている、AI(人工知能)を使ったオートマチックBoPで車両間のパフォーマンスをコントロールする点や、コスト削減の観点から年間を通じてひとつのエアロパッケージを使用することが挙げられる。
これにより、これまで見られてきた通常のサーキット用のハイダウンフォース仕様と、ル・マン用とローダウンフォース仕様の使い分けができなくなっている。その空力規定では、ダウンフォースとドラッグの比率で示される空力効率(L/D)を規定の枠内に収める必要がある。
今月8日、両規定の“コンバージェンス”に向けたレギュレーション改正がWMSC世界モータースポーツ評議会で承認され、タイヤ、加速プロファイル、ブレーキ性能、空力という4つの主要な領域の調整を行うことでWECだけでなく、デイトナ24時間やセブリング12時間といった伝統ある耐久レースを抱えるウェザーテック・スポーツカー選手権にも、2023年シーズンから出場できることになったLMH。
新規定の正式採用やシリーズ間での相互参戦の実現までには紆余曲折を経たが、ハイパーカークラスのデビューイヤーにグリッケンハウスの新規参戦が実現したことや、将来トヨタのライバルとなるプジョーやバイコレス、23年に参入予定のフェラーリをプロトタイプ・スポーツカーレースに復帰させるなど、すでに大きな役割を果たしていると言えるだろう。
IMSAが運営する北米シリーズとの相互参戦が実現した暁には、23年にLMDhプログラムを開始するポルシェが2台体制でWECに参戦することを発表しており、ハイパーカーとLMDhが同じ土俵でバトルを繰り広げることになる。これはル・マンの総合優勝を懸け、ふたたび多数の自動車メーカーがトップカテゴリーを戦うことを意味する。その光景が見られる日が待ち遠しい。
■WECに参戦するハイパーカーの主要諸元
トヨタGR010ハイブリッド | グリッケンハウス007 LMH | プジョー9X8 | |
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全長 | 4900mm | – | 5000mm |
全幅 | 2000mm | – | 2080mm |
全高 | 1150mm | – | 1180mm |
ホイールベース | – | – | 3045mm |
車重 | 1040kg | – | – |
ハイブリッド | あり | なし | あり |
ハイブリッド出力 | 200kW | – | 200kW |
エンジン | 3.5L V6ツインターボ | 3.5L V8ツインターボ | 2.6L V6ツインターボ |
エンジン出力 | 500kW | 500kW | 500kW |
タイヤサイズ | 31/71-18 | 29/71-18(前輪) 34/71-18(後輪) |
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