日曜日の第7戦、1周目は坪井選手がトップで帰ってきましたが、その後、太田選手もずっと離れずに1秒以内でついていっていました。僕はてっきり、坪井選手がペースをコントロールしていて、チャンスが来たときに逃げるのかなと一瞬思ったのですが、太田選手のペースが非常に良かったですね。
太田選手はストレートで前を走る坪井選手のラインからマシンを内側にずらして走っていましたが、あれはタイヤの温度を下げるためだと思います。タイヤの内部の温度が上がってしまうと、落とすのにすごく時間がかかるんです。ああやってイン側を走ればブレーキも冷えるので、ブレーキからホイールとタイヤに伝わる熱も抑えることができる。もしかしたら、中団で走行していた土曜日の経験から学んだことなのかもしれません。太田選手はそういった部分も意識的にやりながら、OTもある程度温存しつつ、好ペースを活かして逆転のチャンスを狙っていたように見えました。
中盤でセーフティカーが入り、早期にピットインしていた岩佐歩夢(TEAM MUGEN)選手が首位に躍り出ましたが、SCからのリスタートで2番手の坪井選手がちょっと出遅れてしまったのは意外でした。本当は坪井選手はフレッシュタイヤで前を追いたかったと思うのですが、どちらかというと後ろの太田選手を気にしなくていけなくなってしまった。坪井選手はそこでもOTを余計に使わなければいけなくなりましたし、あそこも第7戦のひとつのキーポイントだったように思います。
一方、その瞬間の岩佐選手のペースが、タイヤのマイレージの割にすごく良かったのはちょっと驚きました。リスタートしてすぐに、後続のニュータイヤ勢に抜かれてしまうかと思いきや、何周か粘ることができた。一度、坪井選手が仕掛ける良いバトルがありましたが、そこでもTEAM MUGENのクルマはある程度ストレートスピードがありましたし、反対に坪井選手はそこでOTを使い切ってしまい、太田選手に抜かれることになってしまいましたね。
■引退発表した大嶋への期待
あと、今回の勢力図でいうと、トップ集団の下、5位から10位あたりの争いが結構熾烈になってきているのが面白かったと思います。トヨタ勢で言えばSANKI VERTEX PARTNERS CERUMO・INGINGだったり、Kids com Team KCMGだったり……大嶋和也(docomo business ROOKIE)選手もレースペースがとても良かったし、ホンダならそこにPONOS NAKAJIMA RACINGがいますし。そういえばJuju(HAZAMA ANDO Triple Tree Racing)選手も今回予選で良かったですし、次からも楽しみですね。
最後にひとつ。今回、僕と長い期間一緒にレースをしてきた大嶋選手がスーパーフォーミュラからの引退を発表しました。近年は1台体制のルーキー・レーシングということでいろいろなプレッシャーのなかで戦ってきてすごく大変だったと思うのですが、最近は調子も上げてきていますし、残りの5レースでまた力強さを見せてくれることを楽しみにしています。
●くにもと ゆうじ
1990年生まれ、神奈川県出身。2007年、フォーミュラ・チャレンジ・ジャパンで4輪レースにデビューし、2年目にタイトルを獲得。2010年には全日本F3選手権王者となる。翌年からフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)にステップアップすると、2016年にはドライバーズタイトルを得た。2017年はトヨタGAZOO Racingよりル・マン24時間レースを含むWEC世界耐久選手権にスポット参戦した。スーパーGTでは2012年から現在まで、GT500クラスのトヨタ/レクサス陣営で活躍。一方、スーパーフォーミュラは2024年限りで現役を引退した。カメラの腕前はプロ級で、例年WEC富士戦の際はTGRオフィシャルフォトグラファーとしてコースサイドから写真撮影に勤しんでいる。





