アントネッリの5連勝。19歳でF1参戦2年目の若者が見せる他を寄せ付けぬ圧倒ぶりが際立ちますが、対するチームメイトのラッセルは前戦カナダGPに続けて、決勝では2戦連続無得点となりました。ピットレーン速度違反による5秒のタイムペナルティ、そしてチームのペナルティ消化ミスによる追加のドライブスルーペナルティが大きな痛手とはりましたが、単純なスピードの面でもアントネッリの後塵を拝する結果に終わりました。

 ラッセルが苦戦する理由は一体なんなのでしょうか。各方面のコメントから察するに、シーズン開幕後から進められているメルセデスのマシンアップデートでクルマのバランスが変わっており、今のクルマはアントネッリのドライビングスタイルにフィットしたマシン特性に。逆にラッセル好みのマシンではなくなったという予想を有力視しています。

ジョージ・ラッセル(メルセデス)
2026年F1第6戦モナコGP 赤旗中のジョージ・ラッセル(メルセデス)

 開幕当初はイージーに乗れていたクルマが、アップデートが進むことでドライビングに対する許容(ウインドウ)が狭まった可能性があり、そのため、ドライバーふたりの好みやスタイルに合う・合わないが生じているというものです。では、ラッセルとアントネッリのドライビングスタイルの違いはどこかと考えると、主にブレーキの抜き方だと考えています。

 つまり、フロントを優先してクルマの感触を得ているのか、リヤを優先してクルマの感触を得ているのかの違いです。アントネッリはフロントで感触を得て、ラッセルはリヤで感触を得て走っているドライバーに見えます。アップデートが進むにつれてドライビングに対する許容が狭まくピーキーな挙動となるなか、フロントで感触を得てうまく対応できているのがアントネッリ。一方でリヤで感触を得たいラッセルはピーキーな挙動に対応しきれていない、という感じでしょうか。

 ただ、メルセデスがラッセル苦戦の分析と対策ができれば、次のバルセロナ・カタルーニャGPからはラッセルが復活を果たすことも十分に考えられます。このままアントネッリの独走を許すのか、ラッセルが復活を果たすのか。シーズンの行く末を占う意味でも、いろいろと答え合わせができそうな週末になりそうです。

ジョージ・ラッセル(メルセデス)
2026年F1第6戦モナコGP ジョージ・ラッセル(メルセデス)

■伝統のモナコ・モンテカルロでオーバーテイクを増やす難しさ

 モナコGPではアストンマーティン・ホンダのフェルナンド・アロンソが初入賞を果たしました。振り返れば、開幕前のテストから周回数を稼げず、開幕後も振動問題に苦しみ完走すら難しいという状況もありました。そういった厳しい状況から徐々にレースを完走できるようになり、今回のモナコでは序盤にミディアムタイヤからソフトタイヤに履き替え、ソフトタイヤを50周以上保たせる奇策とも評せる戦略で、他チームと入賞争いを繰り広げました。

 モナコGPはアストンマーティンの今持っているポテンシャルを最大限に引き出したレースでした。正直、『よくここまで持ってこれたな』と思いますね。初入賞はアストンマーティン、ホンダ、そしてドライバーにとってもモチベーションアップに繋がる大切な一歩です。

 当然、スピードの面ではまだまだ足らない部分は多いです。今後『ADUO(PUの性能差を数値化し、それぞれの数値に応じてアップグレード、予算、開発テスト時間の追加が認められる救済措置)』でホンダPUに追加アップグレードが認められれば、夏以降には大きなパフォーマンスアップが期待されます。すでにアストンマーティンとホンダの照準は、追加アップグレード投入後の戦いに向いていると感じます。

フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)
2026年F1第6戦モナコGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)

 さて、2026年のF1マシンはPU規則が大きく変わった上に、オーバーテイクの機会や接近戦を促進するべく、車幅、ホイールベースがなどが短くなりました。昨年までのマシンはモンテカルロ市街地コースを走るには大きく、それゆえにオーバーテイクがほとんどない状況ができていました。わずかでもクルマが小さくなった今年はどうなるかが期待されましたが、結局ほとんど昨年と変わりませんでした。よりサイズが小さなFIA F3ですらモンテカルロ市街地でのオーバーテイクは困難ですし、前のクルマと後ろのクルマのペースが2〜3秒違っても、オーバーテイクができないのがモナコです。

サポートレースのFIA F3でも抜けないモナコは健在/2026年FIA F3第2戦モンテカルロに挑む加藤大翔(ARTグランプリ/HFDP)

 今年のモナコGPは電気エネルギーの回収が容易で電欠のリスクがなく、むしろ電気エネルギーがあまり、エネルギー残量を気にするレースではありませんでした。もし、電気エネルギーの回収が難しく、随所で電欠が発生する状況であれば、電気エネルギーを使用したマシンが電欠マシンをオーバーテイクするシーンは見られたと思います。それだけに、今年のモナコGPは新しい技術レギュレーションらしさは発揮されなかったと感じています。

 モナコGPの場合、しっかりとエネルギーマネジメントをしなければ電欠となるよう、エネルギー回収上限の数値を設定した方がオーバーテイクは増えたと思います。しかし、そうなると前後のクルマの速度差が大きくなり、日本GP後に議論されたようにリスクが伴う状況となります。まだまだ、エネルギーマネジメントの部分は改善余地があるなと感じるとともに、モナコ・モンテカルロというコースでオーバーテイクを増やす施策は、やはり難しいなと再認識しました。

フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)とセルジオ・ペレス(キャデラック)
2026年F1第6戦モナコGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)とセルジオ・ペレス(キャデラック)

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。

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