決勝ではマクラーレン勢を含む7台がスタート時にインターミディエイトタイヤ(弱い降雨時などに使用する浅い溝の入ったタイヤ)を履き、結果的に雨が止んだため7台はレース開始早々にピットでドライタイヤに履き替えました。その様子を見て『なぜスタートでインターミディエイトを履いたのかわからない』という方もいらっしゃったかと思います。ただ、フォーメーションラップ開始前の時点では、インターミディエイトを履くという判断は必ずしも間違いではなかったと感じています。

 それを裏付けるように、22台中7台がインターミディエイトを選んでいます。(延長前の)フォーメーションラップ開始前の時点では直前まで続いた小雨の影響で路面温度と気温が低く、路面は少し濡れている状況でした。小雨はほぼ止んでいましたが、強い雨が降り始める可能性はゼロではありませんでした。マクラーレン勢を含む7台が、雨が降るという可能性に賭ける意味合いはあったと思います。

 ただ、スタート直前のフォーメーションラップ中にオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が無線で『今タイヤを替えない?』という訴えていたとおり、もしフォーメーションラップの段階でインターミディエイトが最善の選択ではないと感じたのであれば、グリッドでスタートを迎えずにピットに入り、ドライタイヤに履き替えてピットレーン出口からスタートを迎えてもよかったのではないかなとも感じます。
 
 ただそういった車両は1台もなく、無線でチームに交換を訴えていたピアストリですら、インターミディエイトタイヤでフォーメーションラップを終えてグリッドに着いています。それだけ迷うほどの理由が、7台にはそれぞれあったということでしょうね。

ランド・ノリス(マクラーレン)
2026年F1第5戦カナダGP決勝 インターミディエイトでスタートしたランド・ノリス(マクラーレン)

 さて、カナダGPの週末にはアメリカでインディ500が開催されました。私はNHK BSでの中継放送で解説を務めさせていただきましたが、今年も面白いレースでした。特に後半は雨が降って赤旗中断を挟んだり、雨粒を起因とするアクシデントなどもあり、終始目が離せない戦いが続いていましたね。最終的にチェッカー目前でトップに浮上したフェリックス・ローゼンクヴィスト(メイヤー・シャンク・レーシング)が勝利を飾り、今年も日本から参戦した佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は12番グリッドから混戦を戦い抜き、10位でチェッカーを受けました。

 インディ500に代表されるインディカーによるオーバルレースとF1は、見た目やコース特性、車両の走らせ方、戦略の組み立て方・進め方などが大きく異なりますが、共通した部分もあります。たとえばPUを見てみると、インディカーもハイブリッドPUを搭載しており、エネルギーマネジメントも鍵となります。今年のインディ500のチェッカー直前にローゼンクヴィストが前に出れたのも、トゥ(スリップストリーム)だけではなく、ローゼンクヴィストが最後までハイブリッドパワーを残していたことが大きいです。そういう点でもF1と似た駆け引きが繰り広げられていました。

 ただ、ウォールに囲まれたオーバルレースなだけに、1ミスに対する許容がF1よりも狭いことから、インディカーはF1よりもミスが許されないとも言えますね。そこがインディ500やインディカーの魅力のひとつかもしれません。

【第110回インディ500詳報】最終コーナーからの大逆転! 史上最小差でローゼンクヴィストが優勝
伝統のミルクを手に勝利の雄叫びをあげるフェリックス・ローゼンクヴィスト

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。

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