オリバー・ラスムッセンのクラッシュにより、急遽スーパーフォーミュラデビュー戦を迎えた野中誠太(ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPUL)。第1戦の予選を前に、激動とも言えるここ数日の動きをまとめた記事をお伝えしたが、デビュー日となった3月8日(土)も、野中にとっては戸惑いが連続する1日となったようだ。
■「いっぱいいっぱい」のなか、英語の無線にも困惑
昨年12月のテストではKids com Team KCMGから出走するなど、スーパーフォーミュラでの走行経験がないわけではないが、まったく仕事がしたことがないチームで、最初のセッションがいきなり予選という状況は「正直、チャレンジングな部分が非常に多かった」と野中。まずは無事にマシンをピットに持ち帰るという部分にフォーカスしたという。
「アタック自体はドライビングでの伸び代もありましたし、正直、フィジカル的にもスピード的にもコース内にとどまるのに精一杯。まずは無事に予選を終えられてよかったです。クルマのフィーリングも、KCMGさんに乗ったときとの違いを感じられました」
決勝ではスタート、ピットストップ、アウトラップなど、スーパーフォーミュラならではの難しさを“フルコース”で味わうこととなった野中。「スタート練習は、レコノサンスラップで最大2回しかできない状況で、手順を覚えるのもいっぱいいっぱいでした」という。
そして、とりわけ戸惑ったのはコールドタイヤでの走行だった。12月のテストからはスペックも変更されているうえ、テストではタイヤウォーマーも使用することができていた。
「ウォーマーを使えないという状況が初めてだったので、冷えているタイヤをどう温めるかというのが、一番苦労しているところですし、そこの恐怖感というか、不安要素を持ちながらレースの1周目やアウトラップも行った感じです」
いざ迎えたスタートは「意外と普通に」できた野中だったが、「その後はあまりにもタイヤに熱が入っていなくて、ハーフスピンみたいになり、ちょっと危ない状況でした」という。

レース後のミックスゾーンに現れた野中は、まだデビュー戦で体験したすべてのことに整理がついていない様子で、戸惑いの感情を隠さなかった。
「もう、クルマに慣れるのにいっぱいいっぱいですし、タイヤが冷えているのもすごく怖いし、SC(セーフティカー)もいっぱい入るし、OTS(オーバーテイクシステム)もよく分かっていなかったので……無事にクルマが生き残って良かった、という感じです」
さらに、ベースとなる部分では、エンジニアとどうコミュニケーションを取るのかもあやふやなまま、レースがスタートしていたという。
今季、19号車のエンジニアは新加入のオスカー・ゼラヤ氏が務めているが、「エンジニアとのコミュニケーションは英語なのか」という記者の質問に、「僕は英語が苦手なので……」と野中。ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPULは星野一樹監督をはじめ、吉田昌信データエンジニア、野間一データエンジニアも英語が堪能でゼラヤエンジニアとの間に入ることが可能なため、最終的には走行中は日本語でコミュニケーションを取る方向となったようだ。
「正直、走っているときに英語(で無線)が入ってきても、もう頭がパンクしていて考える余裕や喋る余裕、理解する余裕もないので、基本的にはもう日本語にしていこうかな、と」
そんな状況に追い討ちをかけるように、ピットストップでは右リヤタイヤ交換でアクシデントが生じ、再度ピットインして1輪だけ交換、さらに冷えた右リヤタイヤに手間取りターン3でコースオフ、これが『SC中のオーバーラン』との裁定で競技結果に5秒加算というペナルティまで受けることとなった。
あまりにも酷な状況とも言える突然のデビュー戦となったが、それでも17位でしっかりとチェッカーを受けた野中。翌9日に控える第2戦の予選・決勝の展望について聞かれると、野中は冷静な様子でこう語った。
「課題というか、やることがいっぱいありますけど、まずは整理して……(決勝では)ペース自体は良いときもあったので、まずは予選でしっかりと一発まとめてトップ10に絡めるくらいのところでスタートして。ロングランの走らせ方も今日なんとなくイメージはできたので、今日の経験を明日はさらに伸ばしていければいいかなと思っています」
