シンガポールGPは2024年までの15戦中10戦がポール・トゥ・ウインという、ポール・トゥ・ウイン率が高いコースで、今年もラッセルがポール・トゥ・ウインを飾りました。ただ、フェルスタッペンにもポール獲得の可能性はありました。
予選Q3の最終アタックの際にフェルスタッペンがターン16に到達すると、2、3秒前方にランド・ノリス(マクラーレン)がいました。ノリスが視界に入ったフェルスタッペンはアタックを止めて予選2番手に終わり「それで少なくともポールを狙うチャンスを失った」と、不満を口にしていました。
もし、フェルスタッペンがアタックを止めることなくポールを獲得できていれば、イタリアGP、アゼルバイジャンGPに続く3連勝の可能性もゼロではなかったと思います。というのも、高いポール・トゥ・ウイン率が証明しているように、マリーナベイ市街地コースはオーバーテイクが難しいコースです。
ストレートの距離がそこまで長くないですし、2024年以降はDRSゾーンを4箇所に増やしていますが、ガードレールに囲まれている市街地コースではオーバーテイクに大きなリスクが伴います。そして、ERS(エネルギー回生システム)を上手く活用して守りの走りを見せれば、抜かれることはないコースですからね。
ただ、フェルスタッペンがポールポジジョンだった場合、勝てる可能性が高かっただろうとは言い切れません。というのも、今回のメルセデスは驚くほど回頭性がよく、非常に良く仕上がっていました。メルセデスのクルマはもともとリヤがしっかりしている分、アンダーステア気味の曲がりにくいクルマでした。
ただ、シンガポールGPでのラッセルのクルマはフロントがすんなりとコーナーに入り、リヤのトラックションもしっかりとある。さらに低速コーナーではマクラーレンよりも速く、メカニカルグリップの面でもマクラーレンより優れていたので、今回のメルセデスはかなり凄い仕事を成し遂げたと思います。まさかここまでとは……という感じで、ストレートも速く、弱点が見当たらない仕上がりでした。
ラッセルはもう今季のドライバーズタイトル獲得の可能性はありませんが、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ノリス、そしてフェルスタッペンのタイトル争いをかき乱すキーパーソンになるかもしれませんね。今回のラッセルの好走が高速コーナーがないストリートコースという比較的特殊なコース特性がアシストしたものなのか、その特殊なコース特性の場所で勝つためにメルセデスが狙った取り組みの成果なのかはわかりません。
ただ、ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリのふたりが、今後も揃って好走を続ければ、タイトル争いをかき乱すことになるでしょうし、フェルスタッペンにとってはそれがメリットになるかもしれません。マクラーレン勢を追う立場のフェルスタッペンにとっては、マクラーレンを封じ込めるためにメルセデス勢の力を借りなければいけないですからね。
【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
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