「そもそも大きなハードウェアの変更もなしに、今年戦おうとしていること自体がダメだったと証明された。もう空力とタイヤ(の使い方)なんです。もう、徹底的にやらないといけない。敵はやってきた。だから先ほど一貴が言ったように、新しいものを入れていきます。これはもう、やるしかない」
「トヨタ自動車の抱えている縮図と同じ問題が、TGR-Eでもあるな、と。コミュニケーションの問題だとか、現場との距離感だとか。いま、他のレースではモリゾウさん(トヨタ自動車豊田章男会長)が中心になって、そこを一生懸命に変えようとしている。ちょっとずつ変わりつつあるという手応えは感じる一方で、やはり旧態依然とした体制・体質があるなというのは、“旧態依然の代表”として僕が見ているので(苦笑)、間違ってないと思います。それを変えるためには『旧』の人が入っても仕方がないので、新しい人を……正直、“エース”を投入します」
「そして水素。いつまでも遊んでいる場合じゃないぞ、と。とっと本気出せ、と。せっかくあそこまでクルマを展示しておいて(※2025年ル・マンで発表したGR LH2 Racing Concept)いつ走んねん、と。もっともっと、俺たちは後がないという危機感を醸成しないと。やっぱり言い方は悪いけど、甘さはちょっとあったかなというのは、素直に認めざるを得ない」
2026年にアップデートが投入されるGR010ハイブリッド、そして新型液体水素プロトタイプというふたつのプログラムを同時並行で進めていくことが、この先のTGRには求められる。その際のリソースについて記者から問われた中嶋副社長は「知恵の出し方が大事」であると強調。トヨタなりの効率性を重視したアプローチについて説明した。
「(現行のハイパーカーで)同じルールで戦っている競合が、なぜその性能を出せるのかというのを一生懸命調べてもらうと、それなりの理由もちょっとずつ分かってきました。これは人の数やお金の問題ではないな、という気づきがあったのが一点」
「水素に関しては、もともと水素エンジンはずっとやっていますし、社内には水素ファクトリーという専任部署も作っていて、そこに千数百名がいます。これはモータースポーツだけでなく、水素社会を実現するというのが我々の責務だと思っているからですが、そのなかのメンバーでしっかりやりくりができると思っています。そこは一生懸命に、もっともっと効率よくやっていくということだと思っています」
中嶋副社長は、苦戦が続くWEC・ハイパーカーで得られた技術の市販車転用について問われた際、「正直、そのステージではなくて、まず『勝てよ』と。勝たなきゃ何が展開できるか分からないじゃないか、というのが正直なところです」と勝利に向けた不退転の覚悟も口にしている。
「そこまで我々は追い込まれていますし、もっと勝ちにこだわるために、キレイごと言ってる場合じゃないな、と。ですからまずは勝って、それ(技術力)を証明する。その上で、『この技術がこういうところに使えるね』というデータは取っていますから、いつでも(量産車には)展開できると思います」
「先ほども言ったように、量産(の経験)がしっかりしたメンバーも入ることによって、どこを掘ればもっと勝てるのか、そういった新たな発見ができることを私としては期待していますし、勝ちという結果とともにそれは証明できることだと思っていますので、まずは来年に向けて、しっかり勝ちにこだわっていこう、というのが我々の正直なところです」
■GT3車両発表は「近い、近い、近い将来」?
なお、記者からは現在開発中の新型GT3車両の進捗を問う質問も上がったが、これについては一同、慎重な受け答えに終始した。「実戦デビューはいつ頃か」という問いに対し、「答えは言いませんが」と前置きした上で、中嶋副社長は次のように答えている。
「そのつもりで、グッドウッドに行ってみたりとかしているので、だいたい想像はつくと思うんですよね、『本気や』と。恥ずかしいものはあそこに持っていけないので、それなりのものはできつつあるな、と。なので、ものすごく、近い、近い、近い将来にね……何かこちらから、アナウンスするかもしれません」



