トップカテゴリーの『ハイパーカークラス』は2021年に導入され現在に至るが、実はWECに参戦している各社のハイパーカーは2種類に分けられる。
ひとつはこの比較的新しいカテゴリーのためにFIAとACOによって作られた“ル・マン・ハイパーカー(LMH)”規定車。もうひとつは北米の耐久シリーズであるウェザーテック・スポーツカー選手権を運営するIMSAとACOのコラボレーションによって誕生した“ル・マン・デイトナ・h(LMDh)”規定に準拠したマシンだ。
LMHの特徴は、全体のデザインやパワートレインの設計自由度が高く、マシンにブランドの特色や技術力を盛り込むことができる点にある。一方のLMDhは、オレカ、ダラーラ、リジェ、マルチマチックという4社のLMP2シャシーをベースにマシンを製造することと、後輪を駆動する共通ハイブリッドシステムを搭載する点が特徴。LMHと比べて車両開発コストを抑えることができるため、近年マニュファクチャラーを惹きつけている。
| メーカー | マシン | 規定 | WEC参戦年 | 参戦シリーズ |
|---|---|---|---|---|
| トヨタ | TR010ハイブリッド | LMH | 2021年~ | WEC |
| プジョー | 9X8 | LMH | 2022年~ | WEC |
| フェラーリ | 499P | LMH | 2023年~ | WEC |
| キャデラック | Vシリーズ.R | LMDh | 2023年~ | WEC/IMSA |
| アルピーヌ | A424 | LMDh | 2024年~ | WEC |
| BMW | MハイブリッドV8 | LMDh | 2024年~ | WEC/IMSA |
| アストンマーティン | ヴァルキリー | LMH | 2025年~ | WEC/IMSA |
| ジェネシス | GMR-001ハイブリッド | LMDh | 2026年~ | WEC |
| フォード(予定) | 未発表 | LMDh | 2027年~ | WEC |
| マクラーレン(予定) | 未発表 | LMDh | 2027年~ | WEC |
■BoPで規定間、車種間の性能差を調整
このふたつの規定は、最高出力や最低重量などの共通化、空力効率の数値によってエアロ性能に規制をかけるなど、LMHレギュレーションで作られたマシンとLMDhカーが両選手権に相互参戦できるように調整されている。その甲斐ありWECでは2023年から、IMSAの最高峰GTPクラスでも昨季2025年から両規定のマシンが同一クラスでバトルを演じている。
このようにしてさまざまハイパーカーが集うこととなったが、これらの車両のパフォーマンスを近づけるため、WECではBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれる“性能調整”をラウンドごとに設定している。つまり、ある特定のマシンがひとり勝ちしないようにしてるのだ。
このBoPは、ハイパーカー各車の最低重量や最高出力、スティントあたりの最大エネルギー量、給油時の追加時間を細かく定めたもので、FIA/ACOのもとに集められた膨大な走行データを基にした緻密な計算のうえに弾き出される。
一部設定項目が異なるものの、BoP(=性能調整)はLMGT3クラスにも採用されている。なお同クラスでは、直近2レースの成績とランキングに応じてウエイトを加算するサクセスバラスト・システムも導入されているため、同一車種であっても車両重量が異なる場合がある。
■ハイパーカーの主な諸元
| トヨタTR010 ハイブリッド | プジョー9X8 | アルピーヌA424 | キャデラック Vシリーズ.R |
|
|---|---|---|---|---|
| プラットフォーム | LMH | LMH | LMDh | LMDh |
| 全長 | 4900mm | 4995mm | 5088mm | 4990mm |
| 全幅 | 2000mm | 2000mm | 1992mm | 1996mm |
| 全高 | 1150mm | 1145mm | 1055mm | ― |
| ホイールベース | ― | ― | 3148mm | 3148mm |
| 重量 | 1040kg | 1030kg | 1030kg | 1030kg |
| エンジン形式 | V6ツインターボ | V6ツインターボ | V6シングルターボ | V8自然吸気 |
| 排気量 | 3.5L | 2.6L | 3.4L | 5.5L |
| 燃料タンク | 90L | 90L | ― | 110L |
| 最高出力 | 520kW(707PS) | 520kW(707PS) | 500kW(680PS) | 500kW(680PS) |
| モーター出力 | 200kW(272PS) | 200kW(272PS) | 50kW(68PS) | 50kW(68PS) |
| ギヤボックス | 7速シーケンシャル | 7速シーケンシャル | 7速シーケンシャル | 7速シーケンシャル |
| 駆動 | 全輪駆動(190km/h~) | 全輪駆動(190km/h~) | 後輪駆動 | 後輪駆動 |
| タイヤ(フロント) | 29-71/R18 | 29-71/R18 | 29-71/R18 | 29-71/R18 |
| タイヤ(リヤ) | 34-71/R18 | 34-71/R18 | 34-71/R18 | 34-71/R18 |
| ホイール(フロント) | 12.5×18インチ | ― | 12.5×18インチ | ― |
| ホイール(リヤ) | 14×18インチ | ― | 14×18インチ | ― |
※メーカー発表資料より
■前年仕様からアップデートされたマシンが多数登場
まもなく開幕の時をむかえる2026年シーズンは、昨シーズンまでトップコンテンダーとして存在感を示してきたポルシェチームがハイパーカークラスを去る一方でジェネシスが新規参入するなど、一部で入れ替えがあるもののレギュレーション上は大きな変更なく、ほとんどのハイパーカーが継続参戦する予定だ。
しかしながら今季は、『GR010ハイブリッド』から『TR010ハイブリッド』へと車両名を変更したトヨタを含む複数のメーカーが、シーズンの開幕を前にマシンのアップデート(改善)を行っている。アップデートはエアロダイナミクスといったひと目見て分かるものから、ブレーキ関係やサスペンション、エンジン内部、駆動系パーツなど外からでは分かりづらいものまでさまざまだ。
ちなみにハイパーカーは、LMHとLMDhカーのいずれもコスト抑制の観点から一度ホモロゲーション(公認)を取った車両を5年間使用することになっている。この間、パフォーマンスの改善を目的とした仕様変更は基本的に認められないが、“エボ・ジョーカー”と呼ばれる制度を利用することで期間中に5つのアップデートが可能。2026年はこのエボ・ジョーカーを使用して競争力が高められた車両が少なくなく、『TR010ハイブリッド』もその一台だ。片や昨年デビューしたアストンマーティンのV型12気筒エンジン搭載マシン『ヴァルキリー』や、ル・マン3連覇中の『フェラーリ499P』などは大きな改良を受けずに新シーズンを迎える。
●今季に向けアップデートを投入
アルピーヌA424
BMW MハイブリッドV8
トヨタTR010ハイブリッド
キャデラックVシリーズ.R
●今季のアップデートなし
プジョー9X8
フェラーリ499P
アストンマーティン・ヴァルキリー
※ジェネシスGMR-001ハイブリッド(デビューイヤー)




LMGT3側でも昨季から2026年にかけて、複数のマシンが新型にモデルチェンジした。いずれもベース車は変わらないエボリューション仕様へのアップデートだが、『フェラーリ296 GT3』と『ポルシェ911 GT3 R』さらに『フォード・マスタングGT3』が改良型(EVO)となっている。
WEC参戦車両が履くタイヤは、ミシュランがハイパーカークラスに、グッドイヤーがLMGT3クラスにそれぞれ単独サプライヤーとして供給する。なおミシュランは、この2026年から新仕様の『パイロット・スポーツ・エンデュランス』を投入する予定だ。ドライバーたちから、「ウォームアップが改善された」「熱入れが格段に楽になった」などと評価する声が挙がるこの新タイヤはすでにIMSAのGTPクラスに投入されており、いずれもポルシェ963が優勝した1月のデイトナ24時間レースと3月のセブリング12時間レースで使用された。


