国際自動車連盟(FIA)は、F1のパワーユニット(PU)における『ADUO(Additional Development Upgrade Opportunities/追加開発アップグレードの機会)』のために行った評価結果を各チームおよびマニュファクチャラーに通達した。アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームにPUを供給するホンダも、開発の優遇措置を得ることになる見込みで、その適用についてホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長は「妥当」と語ったが、その一方でトップチームとの開きがあることについて渡辺社長は悔しさを露わにした。

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──F1のパワーユニット(PU)における『ADUO(Additional Development Upgrade Opportunities/追加開発アップグレードの機会)』のためにFIAが下したパフォーマンス評価も、第7戦バルセロナ・カタルーニャGPの週末に話題となりました。ADUOは、ベストなエンジンに比べて性能が劣るマニュファクチャラーに救済措置として開発の機会を与えるシステムで、その性能は内燃機関(ICE)の性能に絞って行われます。FIAは一般には公表していませんが、各チームおよびマニュファクチャラーにはすでに結果を通知しています。その結果をあえてお尋ねしませんが、渡辺さんはどのように受け止めていますか。

渡辺康治社長(以下、渡辺社長):「ホンダ側の適用に関しては、妥当な範囲だと思います。エンジンのパフォーマンスを向上させるための開発はADUOが適用されないとできません。適用されれば、それを最大に活かして、エンジンのパフォーマンスの向上のための開発を加速させ、夏ぐらいには次のスペックを入れたいです」

──アップデートしたエンジンは適用された後にしか投入できませんが、開発はそれ以前に開始することができると考えていてよろしいですか?

渡辺社長:「はい、できます」

──では、振動対策とは別に、同時進行でその準備も進めていたと考えていいですか?

渡辺社長:「そうですね。ADUOを適用する最初の期間が第5戦カナダGPまでで、カナダGPの後、14日以内に書面にて通達をしますというレギュレーションになっていますが、我々はモナコとここでもアップデートしたエンジンを投入していません」

──なぜですか? 抜けないサーキットだからですか?

渡辺社長:「いや、そうではありません。ADUOで許可されている開発項目は様々で、それをバラバラに投入することができないのです。つまり、必要だと思われる開発をすべて完了した後に一度に投入しなければなりません。さらに現在はバジェットキャップもあるので、開発が以前よりも複雑な行程が必要になっていることもすぐにアップデートを投入できない理由になっています。我々にはいくつか入れたい球(開発パーツ)があり、それらがすべて整うタイミングが夏頃だということです」

ランス・ストロール(アストンマーティン)
2026年F1第7戦バルセロナ・カタルーニャGP ランス・ストロール(アストンマーティン)

──アストンマーティンもどこかのタイミングでアップデートを集中して投入する予定だと聞いています。そのタイミングに合わせるということでしょうか。

渡辺社長:「車体とエンジンのアップデートのタイミングを一緒にするかもしれませんし、別々にするかもしれません。いずれにしても我々のPUにとってベストタイミングを考えた上で決定していきたいです」

──ADUOに関しては、現在ふたつの選手権でトップに立っているメルセデスが適用され、さらなるアップデート投入が可能になるという皮肉な結果となりそうです。

渡辺社長:「ICEの出力をFIAがモニタリングして、トップに対して何%の差があるかをデータに基づいて判断するというレギュレーションは元々あり、何かが変わったわけではありません。メルセデスのPUは全体として非常に競争力のあるものなのでしょう。そういう意味では各社が驚いたというのは事実かもしれません」

──昨年までパートナーだったレッドブルが今年は自社製エンジンを走らせていますが、関係者の話を総合するとレッドブル・パワートレインズのエンジンがトップだという評価になっているようです。そのことについては?

渡辺社長:「正直、驚きました。同じパワーユニットマニュファクチャラーとして敬意を表したいですし、素晴らしい仕事をしたと思います」

ホンダHRC渡辺康治社長インタビュー(2)
ADUO(Additional Development Upgrade Opportunities/追加開発アップグレードの機会)の最初の評価の結果、レッドブル・フォード・パワートレインズのエンジンが最も優れていると判断された

──まだADUOの数値は公表されていないので私たちにはその差がどれくらいなのかわかりませんが、パドックの話を総合すると、ホンダがトップから遅れていることは間違いないようです。エンジンメーカーとしてこの結果をどのように受け止めていますか?

渡辺社長:「非常に悔しいです。 HRC、もしくはホンダ全体として、現在の状況は非常に悔しく、とにかく全力で挽回するんだという強い思いでいっぱいです」

──劣勢を挽回するために、何かHRC内での変更などは考えていますか?

渡辺社長:「新しいレギュレーションが非常に複雑で難しかったことがこのような結果になってしまったことは事実ですが、新しいレギュレーションが導入されるタイミングで、我々は新しいチームと組んで、新しい燃料と新しいオイルとともにF1に復帰したというのは、かなり高いハードルだったと思っています。第4期のF1活動を終了し、レッドブルとアルファタウリにホモロゲーションされたパワーユニットを渡した2022年の3月をもって、HRCのエンジニアは大量にHRC Sakuraから本社の本田技研や本田技術研究所に戻って行きました。そこからアストンマーティンとパートナーシップを締結することを発表した2023年5月までの約1年間、サクラでは非常に少ない人数で基礎研究、要素研究だけを続けていました。そこの間の遅れは結構大きかったです。 だから、体制をもう一度整えるのにはもう少し時間が必要だと思います」

──つまり、いまは組織を変更するより、もう少し時間を与えるということですか?

渡辺社長:「はい、そうです。ようやくいま開発体制が整ってきた状態で、これからパワーユニットの改良をしていくところなので、その成果を待ちたい」

──FIA会長が近い将来、現在の電動化の割合が大きいパワーユニットから、電動アシストを極力減らしたV8エンジンを復帰させたいと語ったと報道されています。それについて、ホンダの基本的な考えを聞かせてください。

渡辺社長:「ホンダのスタンスは何も変わっていません。F1はモータースポーツの頂点なので、技術的にその頂点にふさわしい、ある種先端技術的なものを使うということはまず必要だと思っています。その一方で、スポーツである以上、スポーツとしての魅力、そこも考慮しなければなりません。それに関して、我々は非常にオープンですし、F1がさらに発展していくために、今後もディスカッションに参加していきたいと思っています。一部の報道でV8エンジン復活という話が出ていますが、FIAから具体的な提案はまだ来ていません。したがって、ホンダとして具体的にどういうパワーユニットを支持し、このようなパワーユニットは支持しないというようなコメントはできません。FIAからドラフト(草案)でどうでしょうかというのが送られてきて後に議論が始まりますので、それを見てから前向きに議論に参画していきたいと思っています」

ホンダHRC渡辺康治社長インタビュー(2)
2026年F1第7戦バルセロナ・カタルーニャGP ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長

──ホンダが2026年から復帰する条件のひとつに、F1がホンダの目指すカーボンニュートラルの方向性と合致する存在となり、2026年から電動化技術を促進するプラットフォームになることだったと思います。私たちが危惧しているのは、そのレギュレーションが変わって、電動化の比率が低くなったエンジンが導入されれば、ホンダはまた撤退するのではないかということです。

渡辺社長:「電動化がなくなるとも聞いてませんし、あるとも聞いてません。先ほども言ったように、やはりF1で使用されるエンジンやパワーユニットというものは、モータースポーツの頂点にふさわしい先進技術を採り入れたものであり、かつ環境対応を確実にやっていくというものでなければならないと思います」

──開幕直後はまだアストンマーティンとホンダの間に溝があったように感じていましたが、バルセロナでは少し雰囲気が変わっていたように思います。

渡辺社長:「もともと雰囲気は悪くなかったと思いますが、ワンチーム感が今までよりも強く出てきたことは確かです。今回の振動という共通の問題を一緒に乗り越えたことが我々にとって貴重な経験になったと思います。どっちが悪いとか言っている場合ではなくて、クルマ1台としてどのように改良していくかという視点が大切。それは我々だけでなく、ほかのチームもみんな同じで、『PUが』とか『シャシーが』とか言っているチームはないですから。じつはバルセロナ・カタルーニャGPの週末にここにアストンマーティンとホンダのメンバーが全員集まって、チームギャザリング(集会)を催しました。お互いもっとコミュニケーションして、一体感を強めることが目的です。いいイベントで、みんな喜んでました。非常によかったと思います」

──今後のアストンマーティン・ホンダの巻き返しを期待しています。今日はありがとうございました。

ホンダHRC渡辺康治社長インタビュー(2)
2026年F1第7戦バルセロナ・カタルーニャGP フェルナンド・アロンソのマシンに作業を行うアストンマーティンとHRCのクルー

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