バルセロナ・カタルーニャGP決勝後の表彰式にて、優勝チームのフェラーリからはハミルトンの担当エンジニアであるカルロ・サンティが登壇しました。今回のハミルトンの勝利を支えた重要人物ですが、担当エンジニアとなったのは今季からです。ハミルトンのフェラーリ移籍1年目だった2025年、彼の担当エンジニアはリカルド・アダミという人物でした。
ただ、ハミルトンとアダミは相性が悪かったとされています。アダミが今年1月に『フェラーリ・ドライバー・アカデミーおよび過去車両テスト担当マネージャー』という新たなポジションに就任したことで、以降は暫定的にサンティがハミルトンの担当エンジニアを務めるかたちとなっています。
ドライバーとエンジニアの関係には、相性の良い・悪いが必ずあります。ふたりの性格や向いている方向が同じであれば、阿吽(あうん)の呼吸で物事を進めることができ、特に臨機応変な判断を求められる場面で相性が求められます。
たとえると、ドライバーとエンジニアの相性が良ければ、ひとつの判断を下す際に2〜3段階を踏むだけで済みます。一方でドライバーとエンジニアの相性が悪く、阿吽の呼吸に至る関係が築けていない場合、ひとつの判断を下すのに10段階を経ないと答えを出せないという感じです。これではレースを戦う際に、大きな差が生じます。ドライバーにとって、エンジニアはすべてと言っても良いほど大切な存在ですので、相性の相性の良い・悪いは重要です。
今回のバルセロナ・カタルーニャGPでのハミルトンの勝利は、フェラーリの投入した新たなアップデートが上手く機能したこと、そして担当エンジニアであるサンティとの良好な関係といった要素が噛み合い、ハミルトンが本来の能力を出せた結果の勝利です。ハミルトン本人がいきなり速くなったということではなく、ハミルトンの持つ能力を引き出すための材料が、バルセロナ・カタルーニャGPでようやくすべて揃ったということだと感じています。
ポイントリーダーのアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が今季初ノーポイントに終わったことで、選手権2位のハミルトンとは41点差に縮まりました。今後シーズンが進むにつれて、19歳(編注:8月25日に20歳を迎える)アントネッリと41歳のハミルトンがタイトル争いを繰り広げる展開となれば個人的には面白いなとは思います。
ただ、メルセデスの優位性が崩れたわけではないため、ハミルトンがアントネッリに迫るのは簡単なことではないでしょう。ハミルトンにとってはまず、チームメイトのシャルル・ルクレールに勝ち続けることが大切です。今のフェラーリのクルマのポテンシャルの上がり幅を考えると、ルクレールに勝ち続けることができれば、自然とアントネッリとラッセルを脅かす存在で居続けることができますから。
さて、F1バルセロナ・カタルーニャGPの週末はフジテレビ/FODの解説を務めつつ、ABEMAで行われたル・マン24時間レース中継では前半に3時間ほど解説を務めさせていただきました。ル・マンには9回出走しているので、解説中はいろいろなエピソードが思い出されましたし、またル・マンを走りたいという気持ちにもなりました。
今年のル・マン24時間レースでは、日本のトヨタ・レーシングがワン・スリーという素晴らしい結果を残しました。世界的なレースにおける日本メーカーの活躍は、日本のレースファンにとってとても嬉しいことですね。私が解説を担当していた前半からペースが良く、このままいけば『トヨタが勝てない理由がない』という走りでした。思わず『予選はなんだったんだ?(編注:トヨタは14番手と15番手)』と感じるほどでした。
逆に言えば、決勝に合わせ込んだ作戦の組み立て、決勝で勝つクルマの作り方を徹底した表れだったのかもしれません。今年のル・マンでのトヨタの勝利は、これまでトヨタが培ったル・マンの知見とチームやドライバーの努力の結果だと感じています。やはり日本メーカーの活躍には、明るい気持ちになりますね。

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。
- 公式HP:https://www.c-shinji.com/
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